水面下で獲得に動いていたバレーを獲り逃す
補強というものは「予算」と「時間」との戦いだ。
新シーズン、選手に掛けられる予算は4億円ほどというプロヴィンチャ(地方クラブ)のヴァンフォーレ甲府は、やはり、その二点に苦しめられた。
レンタル元のウム・サラル(カタール)との移籍金交渉が折り合わず、昨季の得点源だったダヴィを手放すことになったのは、想定内のことだった。
ところが、その穴を埋める存在として水面下で獲得に動いていたバレーまで獲り逃すことになってしまう。こちらのほうは、契約がまとまるのも、時間の問題だった。
しかし、どこで情報が洩れたのか、まさに契約が締結されるという段になって、より良い条件を提示した清水エスパルスに奪われてしまった。
加えてその頃、興味のあった日本人ストライカーの動向も決まってしまう。まさに「予算」と「時間」との戦いに苦しめられたというわけだ。
新体制発表のあとには、フルミネンセやパルメイラスを渡り歩いたFWウーゴと、U-17ブラジル代表経験のあるMFレニーの獲得が発表されたが、このふたりのブラジル人の実力は未知数だけに、ダヴィの穴を埋められたとは言いがたい。
ほかにも20代半ばの中盤の選手やロンドン五輪世代の若手にも積極的に声をかけたようだが獲得できず、当初の狙いに沿った補強ができたわけではなかった。
しかし、だからといって、甲府の苦戦は必至かというと、そうは言い切れない。
昨季を思い出してみてほしい。
結果的にダヴィはチームの得点源として活躍し、J2得点王にまで輝いたが、途中加入した11年シーズンはノーゴールに終わっていた。ハーフナー・マイクとパウリーニョが退団したため、12年シーズンの開幕前には得点力不足を懸念する声が少なくなかった。
ところが、様々な組み合わせを試しながら、土台を作っていたシーズン序盤こそ苦戦したが、課題を一つひとつ潰していった成果が出はじめた7月末に首位に立つと、攻撃的なサッカーと手堅く逃げ切るスタイルを巧みに使い分け、J1復帰、J2優勝、さらに24戦無敗という記録も樹立し、シーズンを終えた。
なかでも大きかったのは、ポゼッションスタイルの中では明らかに“異分子”だったダヴィを最大限に生かす攻撃作りに着手し、メンタルケアも含めてダヴィを蘇生させたことだった。
今季はそのダヴィが抜け、シーズン途中に獲得したフェルナンジーニョとも契約を更新しなかった。
では、今季のポイントは、どこにあるのか。