引退後の人生について
――セカンドキャリアという言葉がありますが、松田さんご自身は引退後の人生というものは描けています?
松田 ぜんぜんです。解説者は間違いなくない(笑)。指導者に関しては「面白いな」とは思っています。ただ「トリコロール以外は着ないでくれ」とサポーターに言われたときに「でも、会社もポストを用意してくれているわけでもないし」と思って。もちろん(現役を)辞めるつもりはなかったけど、たとえば辞めたあとに、下からはいつくばって(指導者のキャリアを積む)ということを考えていたら、すごく嫌になって。だったら「今を生きよう」と思って。先を見ても、できなかったら何もならないし。もちろん、そういうビジョンを持ちながら勉強して、というのはあるとは思うんですけど。
――私は、松田さんが子供たちに指導している姿は、それはそれでありだと思います。とはいえ、マリノスにこだわらなくてもいいのでは?
松田 自分は、マリノスという最高の環境で16年間やってきて、次に行くチームはたぶん、そうではない環境になると思うんです。そういう中で、またいろんな勉強があるだろうし、自分を見つめ直したりすることもできるかもしれない。
――「こうなったら辞めよう」という基準のようなものはありますか? 走れなくなったら、とか。
松田 今はトレーナーもいるので、筋力は落ちていないです。反転とかスピードとか、ある程度は落ちたかもしれないけど、経験とかポジショニングとか、逆に伸びているところもあるので。技術とかも、自分の場合、下手すぎたから、今でも伸びている感じがするんですよ、錯覚かもしれないけど。
――気力という意味では、どうでしょう?
松田 今はそういうのは考えられない。「気力がなくなったら終わり」という考えは、今は自分の中ではできていないですね。
――4年前、戸塚のクラブハウスでインタビューさせていただいたときに「代表やワールドカップのこだわりがなくなったら辞めたほうがいい」とおっしゃっていました。覚えていますか?
松田 かーっ(笑)。そうかあ、変わっているわあ!今は無職の状況じゃないですか。だからそこは、うーん……。でも自分の中では、周りからすれば笑い話かもしれないですけど(今の代表選手に)負けているとは思っていないですよ。そういう気持ちはあるので。もしそれがなくなったら、辞めるときなのかなあと。
――今年のワールドカップはご覧になったと思います。どんな印象でしたか?
松田 うーん、岡ちゃん(岡田武史監督)に関してはどうかなって思いましたけど。戦術がどうのじゃなくて。
――もう少し詳しく、お願いできますか?
松田 日本代表は五輪と違って、年齢に関係なく、日本人のサッカー選手の中から選ばれるわけで、それってすごいことじゃないですか。その重みというものは、自分も感じてきたし、そこに入った人にしか分からないプレッシャーというものが、すごくあるんですよ。それは軽々しく言えるものではないし。その中で戦っている人たちを尊敬もしています。だけど、本当に気持ちを込めてやっているのかな、と思える瞬間がたまに見えてしまう。気持ち込めて戦っていないな、というのが見えてしまうのは、自分としてはすごく嫌ですね。だからジーコの時も嫌でしたし、岡ちゃんのときも(5月の壮行試合で)韓国に気持ちを見せないままに負けたりした時にはね。自分の場合、戦術がどうこうではなくて、本当にそういうところが大事だと思うので。