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ビラス・ボアスの美学とイングランド・フットボールの未来

text by 植田路生 photo by Kazuhito Yamada

 スパーズの両SB、ウォーカーとアス=エコトは運動量が豊富だが、激しい上下運動は必要ない。自慢の体力はすぐ近くの敵からボールを奪うことに使えばいいのだ。

 高い位置でボールを奪うことができれば、当たり前の話だが、自然とラインは高く保たれる。スパーズの選手たちは、ハイラインとフォアプレスが表裏一体であることを常に意識する必要があり、指揮官もまたその考えを選手たちに理解させなければならない。

 もちろんすぐには上手くいかないだろう。チェルシーのディフェンスラインが下がり始めたのは、イージーミスの失点が続き、3試合連続で1-1のドローに終わった第18節以降からだ。美学を遂行することに根負けした選手たちが自己判断して、監督の考えと正反対のことをするようになった。すなわちチームの崩壊だ。
指揮官がスパーズで取り組むべきは、こういった既成概念の打破だ。「失点を防ぐために下がって守る」という元より選手が持っている考えを、「失点を防ぐためにボールを持ち続ける」というコペルニクス的転回が必要なのだ。

指揮官の哲学に沿う選手を獲得したスパーズ

 今夏、スパーズの動きは早かった。ベルギー代表のCBヤン・フェルトンゲンとアイスランド代表の攻撃的MFギルフィ・シグルドソンを獲得。

 189cmと大型DFのフェルトンゲンはアヤックス時代に積極的な攻め上がりでチャンスメークもそつなくこなしており、足下にピタリと収まる正確なパスを出せる。カブール、ギャラス、ドーソンの3人と比較すると、ビラス・ボアスの理想のCBに一番近い。

 また、シグルドソンは昨季冬に期限付き移籍していたスウォンジーで18試合7得点と攻撃を牽引。ブレンダン・ロジャース監督の下、“スウォンセロナ”の躍進の原動力となった。彼の特徴は、パスセンスはもちろんのこと一瞬で裏に抜け出すスピード。まさに神出鬼没で、密集地帯でもボールをさばける。指揮官は練習メニューに狭いスペースでボールを受けられるようにするためのトレーニングを必ず入れており、哲学に合った選手と言える。

 チェルシー時代、ビラス・ボアスは自らが望んだ選手を獲得することができなかった。ポルトのジョアン・モウチーニョについては何度もフロントに懇願していた。それを考えると、準備は比較的順調と言えるかもしれない。あとは、選手のコントロール、マネージメント面だ。

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