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ビラス・ボアスの美学とイングランド・フットボールの未来

『革命家の哲学とスパーズでの展望を占う』
2012年7月、革命家がロンドンへ帰還した。トットナム・ホットスパー、アンドレ・ビラス・ボアスの新監督就任を発表――。世界一わがままなクラブ、チェルシーを解任された若き指揮官は、再びプレミアリーグに戦いを挑む。ビラス・ボアスがノースロンドンの地で成功を収めることができるのか。カギとなるいくつかのポイントがある。もがき苦しんだブルーズでの10ヶ月間を題材に、彼の未来を占う。

text by 植田路生 photo by Kazuhito Yamada

 今週末、ホームにマンチェスター・ユナイテッドを迎えるトッテナム・ホットスパー。今季からチームを率いるビラス・ボアス監督は、どのような哲学をチームに持ち込もうとしているのか。開幕前に、今季のスパーズを欧州サッカー批評6にて占っている。果たして、チームはビラス・ボアスの思い通りに変化を見せているのか。今回の原稿を踏まえ、週末のゲームを楽しんでいただければ幸いだ。(編集部)


革命家の美学 ハイラインとフォアプレス


攻撃的サッカーを志向する、ビラス・ボアス【写真:山田一仁】

 ビラス・ボアスの美学は超攻撃的サッカーだ。自分たちでボールを持つ、相手のボールはすぐに奪う、が基本概念にある。その出発点になるのが、高いディフェンスライン、そして攻撃の起点としてのCBだ。

 チェルシーではシーズン前のキャンプから、ウイングを使った攻撃の組み立ての起点をCBが務めるトレーニングに取り組んでいた。バルセロナやボルシア・ドルトムントなどパスサッカーのチームでは当たり前となっている“起点としてのCB”だが、チェルシーにおいては自殺行為に近い。テリーはたった10mのパスでも受け手に移動を求める(キャプテンの名誉のために言うと、テリーはプレミアリーグのCBの中ではパスセンスは優れている部類に入る。あくまでバルサ的視点から見て、寸分違わぬパスが出せないということだ)。だからこそのハイラインだった。選手間の距離が短ければ、パスのズレは少なくなる。

 序盤戦はできていた。象徴的だったのは、敗れはしたが3-5と打ち合った第10節のアーセナル戦。試合中、常にラインを高く保ち、らしからぬパスワークで拙い相手守備陣を切り裂く場面もあった。ブルーズの方がより拙守だったため5失点したが、ポゼッションではパスサッカーの先輩を相手に54%と上回った。美学は示した、あとは個々の質を高めるだけだった。

 それが、シーズンが進むとズルズルとラインが低くなる。ランパードが下がってボールをもらいに行かざるを得なくなり、ロングボールを放り込むことが多くなった(第1節から連続して試合を見返すとよくわかる)。
スパーズでも同じような事態にならないとは限らない。そこで大事になってくるのが、ビラス・ボアスが考えるスペースの概念だ。

 極端な言い方をすれば、彼には「広いスペースを使う」という概念がない。トレーニングでよく見られたのは、狭いスペースでのパス交換とボール奪取の精度を上げるものだ。時には30m四方の中で9対9をすることもあった。これだけの狭小空間では当然ロングボールを蹴ることはできない。

 彼が植え付けたかったのは、ボールを奪われた後のアクションだ。だが、チェルシーの選手たちは指揮官の思惑通りに動いていたとは考えにくい。例えばアシュリー・コール。攻め上がって失敗したとき、全力でダッシュして最終ラインまで戻っていた。彼がすべきだったのは、すぐ近くのボールホルダーへのフォアプレスだ(2月以降ではジョギングして戻るというけしからん場面も見受けられたが)。

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