つまりは、「イスラエルに行け」というマルセイユの脅し。強権的な態度に驚かれる方もいるかもしれないが、私もスペインでこういう選手や事例を何度も目にしてきた。欧州クラブというのはクラブの利益を確保するためであれば、時に選手を脅すことも厭わない。マルセイユの対応を見てもわかる通り、必要とあらばドライに選手を干すことも辞さないのだ。
「クラブとしては、権利というか手段は常にあるわけで、そういう事もちらつかせていかないといけないかもしれない」と語る田邊氏は、実際Jクラブとの契約交渉で「シーズン途中の夏に移籍するとなると(戦力として)計算しにくい」と言われた経験があるという。
ガンバ大阪は稲本の代役として遠藤を獲得した
脅しではなかったものの、選手がその発言に過敏となり、契約延長をする。田邊氏は、「それが卑怯だとは全然思いません。実際問題、日本と欧州ではシーズンが異なるわけで、チームとしては途中でいなくなられると困るわけです」と語る。また、稲本潤一(現川崎)が2001年にアーセナルに移籍する前のガンバ大阪の対応をこう振り返る。
「稲本が2000年に私とエージェント契約をし、『1年後に海外移籍したい』と伝えた時、ガンバは京都から遠藤を獲得しました。稲本の移籍を想定して1年前から準備をしたということです」
Jクラブが主力選手の海外移籍を想定して早くから代役の選手を探す、獲得するという準備はできるかもしれないし、鈴木氏によると鹿島はすでに「3年刻みくらいで主力が抜ける可能性があるという覚悟を持ってチーム編成をしている」という。しかし、複数年契約に応じず、契約満了を待って移籍金なしで移籍しようとする選手を干すような強硬な態度をJクラブに求めるのは難しい。
「やはり日本人の国民性であったり、日本の文化を考えると、欧州のクラブみたいに、割り切ったことはできないです。選手の立場になって考えてあげる部分と、クラブの立場を理解してもらうという作業をやるしかない」という鈴木氏の見解同様、佐久間氏もこう語る。
「欧州のクラブは非常に強権的というか、選手よりもクラブが強い。選手が複数年契約をしなかった瞬間に試合に出さなかったり、あるいはライバルとなる選手を獲得したりする。新しい選手を連れてくる。そういうことを躊躇なくやるし、その財力もあります。それに対して周りの人たちもあまり批判をしない。今もし日本でやったら『選手がかわいそうだ』、『彼の人生を妨害している』とサポーターの皆さんやスポンサーから言われる可能性があります」