佐々木流マネジメント⑤ソーシャルネットワーキング
『集団の情報共有と権限委譲』
丸投げではなく、権限委譲。「事件は会議室で起きているのではない」と映画の台詞にもあるとおり、現場の意思を活かせない組織は硬直し、目的もブレてしまう。ピッチ上で起きることは複雑で、かつ変化が激しい。意思決定をベンチではなく、現場(=ピッチ上)の選手が行えるほうが、迅速に対応できるという発想だ。
また佐々木は、選手だけでなく、自分の部下であるコーチやスタッフ陣にもしばしば裁量権を与える。敵情視察を担当するテクニカルスタッフは、映像を編集するだけでなく、対策ミーティングも仕切る。ドクターが負傷した選手に症状を伝える際も、選手個々の心理状態に合った伝え方をするよう、ドクターに任せる。たとえば同じ程度の怪我でも、「このぐらいならできるよ」と言ったほうがいい選手と、「無理しないほうがいいよ」と言ったほうがいい選手がいるものなのだ。
さらには、選手の招集や起用などを打ち合わせるコーチ会議に、広報や総務など、ピッチ周辺およびピッチ外を担当するスタッフをも同席させる。「担当外のことも知って、考えてもらうことによって、質の高いフィードバックを得られるから」というのが理由だ。集団で物事を解決する、いわばソーシャルネットワーキングを、佐々木はチーム運営に活用している。
佐々木が就任以来、一貫して行ってきたことは、これらのように選手および関係者の力を認め、引き出すためのマネジメントである。佐々木が「サッカーを教える」「選手を育てる」のではなく、選手たち自身が「サッカーを創る」「育つ」環境を整えた結果、なでしこジャパンはここ2年で米国、ドイツ、ブラジル、フランス、スウェーデン、カナダというFIFAランク1?7位すべてから勝利を挙げることに成功したのである。
最後にもう一つ、佐々木の言葉を引く。「肩書きは、選手を守るためにある。選手に言うことを聞かせるためにあるのではない」。
【了】