【後編はこちらから】 | 【サッカー批評issue57】掲載
日本が生み出した、世界に誇る若き才能
「才能は育てるものではない、育つもの」
ある名将と呼ばれる指導者はこう言った。本当に才能があるものは、環境さえ与えれば育つものと考える。しかし、実はその『育つ環境』を与えることが一番重要であり、それこそが指導者がすべき一番重要なことだと考える。
今、日本で一番輝いているプレーヤーと言えば、間違いなく香川真司だろう。日本代表の10番を背負い、来季からイングランドの名門マンチェスター・ユナイテッドへの移籍が決まった日本のエースだ。日本が生み出した、世界に誇る若き才能は、まさに『育つ環境』を与えられた上で、すくすくと育っていった。
生まれ育った神戸を離れ、遠く宮城県仙台市に移り住んだのは、彼が中学校に進学するときだった。親元を離れ、サッカーがよりうまくなるための決断をした香川は、宮城の地で自らの能力を伸ばしていく最高の環境に出会った。「高い意識を持ってやってきましたね」
こう語るのはFCみやぎバルセロナ代表の日下昇氏。日下はクラブのコーチと、香川が小学校の頃に所属していたクラブチームのコーチと交流があった縁で、彼が小5のときに、宮城にやってきたときに初めて見たという。「夏休みにこっち遊びに来て、クラブの練習に参加したんです。そこで『こっちでやってみないか?』と聞くと、本人もその気になってくれた」
当時はまだクラブが立ち上がったばかりだったが、ドリブルに特化した指導で他との差別化を図っていたクラブの特色に、ボールに多く触れることが好きだった香川は、すぐにこの環境を気に入り、宮城行きの決意を固めていった。
「身体が大きいわけではなく、ひょろっとしているけど、止めて蹴る技術や、ボールの持ち方、ファーストタッチのうまさが凄く光っていた。何より、遊びの中で楽しそうにサッカーやっている姿が印象的なサッカー小僧でした」