日本人の嫌うミリタリズムと大衆文化の融合
――黄さんはいつも日韓戦はどちらの立場で?
黄「僕は朝鮮籍なので。どっち、というのはないですね。日本のことについては皆さんの後に僕が言うことはないですね。韓国に関しては、いつも通り。そして洪明甫(ホンミョンボ)がすごかった。『独島のプラカード』を持った朴鐘佑(パクジョンウ)やその前に兵役を逃れていると疑惑になった朴主永(パクチュヨン)に対してもしっかりフォローするんです。韓国の監督では一番大事なことなのですが、男気を見せて『こいつについていこう』と思わせる」
佐山「この俺に命を預けてくれ――みたいな人心収攬術でしょう」
黄「それがもう半端ないですよ。あの見た時の眼力と言いますかね。総括としては、今回18人の選手の中に尚武(サンム・兵役中の選手が入るクラブ)の選手が誰もいなかった。なので、全員が兵役を免除できた。いい選手が多いので、良かったと思いますね」
――今話題に出た『独島プラカード』の件はかなり大きな問題となりました。
黄「プラカードを掲げてしまう背景はあると思います。銅メダルとなると、まず確実に兵役免除。嬉しいのですが、やっぱり後ろめたさがあるんですよ。軍に捧げてこそ男――と言いますか、それが正しいという考えがありますので。全員ホンネは軍には行きたくないけれど、愛国心はあると見せないといけない。国威発揚にこれだけ貢献したんだよ、というアピールをしたいのはなんとなくわかります。当然悪いことだという前提はあるけれども、やってしまう精神状態にあったはずです」
――なるほど。だからプラカードは英語ではなくハングルで書かれていた。
佐山「日本人の忌み嫌うミリタリズムが大衆文化と融合している」
黄「あと韓国人選手は、あの手この手を尽くして、兵役を逃れようとします。両親が離婚して片親だったりすると、親の面倒を見るためには軍隊に行かなくてもいい場合があるんです。サッカー選手の理由としては怪我が多いですね。怪我をしたタイミングで軍隊に申請をすると、免除になったりする」
佐山「5日後の光復節に向けて(8月15日、日本から朝鮮が解放されたことを祝う韓国祝日)ゴール直後の万歳もあらかじめ決めていたらしいじゃない。日本では敗戦を美化して終戦記念日と言うけれど、かつての侵略者に対する戦勝記念日という想像力は働きにくい」
後藤「サッカー協会もそこまで意識していないから、光復節の日や3月1日(三一節。独立運動を記念する韓国の祝日)に日韓戦があったりする。去年の札幌での試合が光復節の直前で、横浜国際総合競技場の98年のこけら落としが三一節だった」