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プレミア流 ワイドアタックの戦術的進化(前編)

text by 河治良幸 photo by Kazuhito Yamada

もっともシンプルなマーカーを振り切ってのクロス

 ここでは最もオーソドックスな4-4-2を例に取り、ワイドアタックのバリエーションを体系的に整理したい。4-4-2は、ほぼ縦に並ぶ形で左右のサイドにそれぞれ2人の選手を配置しているのは周知の通りだ。基本的には彼らを活かす形でワイドアタックは展開される。大きくワイドアタックをパターン分けすると、以下の8つになる。

1.SHの縦の個人突破
2.サイドバック(SB)がバックパスを受けてクロス
3.SBが外側に追い越す
4.SBが内側に追い越す
5.センターハーフ(CH)を含めた3人で崩す
6.トップの選手がワイドに開く
7.サイドチェンジから逆サイドを突く
8.カウンターでワイドのスペースを突く

 どのパターンを用いるにしても「いかにスペースを突くか」と「いかに相手のマークを外すか(スペースを作るか)」が戦術的な目的になる。最もシンプルなのは個人能力でマーカーを振り切りクロスに持ち込むこと(パターン1)。完全に抜け出すことができれば、余裕をもってクロスをゴール前の味方に合わせる、あるいは中に切れ込んでシュートに持ち込むことも可能だが、そこまで行かなくてもマークを半身かわせれば、十分にクロスは上げられる。

 例えばトッテナムで左SHを担うベイルは個人の仕掛けを得意とする選手で、その形から幾度となく味方のゴールをアシストしている。ただし、多くの局面で左SBのアス=エコトがベイルのすぐ後ろまでフォローアップしていることが多い。つまりプレミアリーグの場合、相手も中盤がフラットな4-4-2、もしくは4-2-3-1を敷くクラブが大半なため、SHやウィング個人だけでは同サイドで守備の数的優位を作られてしまう。結果的にはSHが個人技で突破したとしても、SBの背後からのフォローが間接的ながら効いているのだ。

アス=エコト、エヴラ、ウォーカー、それぞれ異なるSBの攻撃参加

[パターン2]SBがバックパスを受けクロス

トッテナムのベイルは個人でも突破できる力があるが、アス=エコトは常にフォローしている。その結果、[パターン2]のように一旦戻してからのクロスが可能になる。

 それでもSHが個人で仕掛けるだけでは、どれだけ能力が高くても対応されやすいもの。そこで多少のリスクを冒してでも、SBの選手が直接的にSHと連動することで、サイドの仕掛けに厚みとバリエーションが加わるのだ。とりわけプレミアリーグにおいては、SBの攻撃参加が勝負のカギを握る傾向にある。SHとSBによるコンビネーションは大きく分けて3つ。先述のリストでは2~4に該当する。

 SBがバックパスからクロスを上げる形は、最もシンプルにチャンスを生みやすいコンビネーションだ(パターン2)。SHが縦に仕掛ける素振りで相手の守備を引き付け、それをフォローしたSBがフリーでボールを受け、相手DFが寄せきらない内にクロスを上げる。相手の守備を大きく崩すことは難しいが、比較的楽にチャンスを作ることが可能だ。

 また、バックパスからのクロスはボールの進行方向が瞬時に変わるため、ゴール前のDFがクロスの目測を見極めにくくなる効果もある。このパターンはトッテナムやリバプールなど、クロスの得意なSBを擁するチームが多用している。バリエーションとして、フリーで前を向いた勢いで更に前方へ持ち上がる場合もあるが、SBが高い位置で受け、いい体勢でクロスを上げられることが大きなメリットだ。

【後編に続く】

初出:欧州サッカー批評5

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