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Jリーグ 12年前

ガンバ大阪・遠藤保仁の「戦術眼」(後編)

text by 西部謙司 photo by Kenzaburo Matsuoka

誰が相手でも、速く考えてゆったりとプレーする

 まず、南アフリカでの遠藤は走っていたのではなく、走らされていたにすぎない。守備的な戦術を採用したこともあって、相手を追って奔走していた。守備がメインになったときにボランチの運動量が増加するのは否応なしであり、遠藤が望んで走り回っていたわけではないのだ。本来の遠藤は、走っていないようにみえるタイプである。W杯での図抜けた運動量は、本人にとっては本意ではなかったと思う。

 一方、遠藤が走っていないというのも誤解がある。実際にはかなり動いているのだが、そうみえないのはスプリントの回数が少ないからだ。走ってはいるのだが、一生懸命走っているようにはみえない。全力を尽くしているというより、流しているイメージがある。それが怠けているように受け取られ、だから批判されているわけだ。また、強引なプレーもほとんどしないので、無理をしないで楽をしていると思われがちでもある。

「チャビって、ずーっと6~8割ぐらいのランニングで、ほとんどダッシュはしていないんです。そりゃ、ミスが少ないよなと思いました」

 W杯のスタッツでは、スペイン代表の司令塔チャビの運動量もトップクラスだった。だが、チャビは遠藤の指摘のとおり、あまりスプリントの回数は多くない。スペインはボールを保持して、ほとんどの時間を攻めているから、チャビは相手を追って全力で走る必要があまりなかったのだ。チャビの運動量の多さは、W杯の遠藤とは反対の理由であり、それこそ遠藤の理想とする姿だといえる。

 全力疾走しながら、ボール1個ぶんの精度を維持してプレーを続けるのは不可能である。チャビといえども、「6~8割」が精度をキープできる限界と考えられる。中盤のプレーヤー、とくにボランチは全速力のプレーをして、しばらく休みというわけにはいかない。ミスも最小限にしなくてはいけない。ポジション柄、スプリンターではなくマラソンランナーのプレーが要求される。

 結局のところ、サッカーをどうプレーするかは2つに大別できるかもしれない。1つは、たくさん走ってアバウトにやる。もう1つは、あまり走らずに緻密にやる。ボール1個ぶんの精度で勝負していく。遠藤のサッカー観は明らかに後者だ。

 いまでこそ、バルセロナの緻密なプレーは絶賛されているが、日本のサッカー界がずっとそうだったわけではない。遠藤のタイプは常に誤解されてきたに違いないのだ。周囲の理解がようやく遠藤に追いついてきたのが現状だろう。その間、誤解されながらも自分のプレーを貫いてきた遠藤は、飄々としていながら、実は相当に図太いと思う。

 いつでも、誰が相手でも、遠藤は速く考えて、ゆったりとプレーする。

【了】

初出:フットボールサミット第6回

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