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Jリーグ 12年前

ガンバ大阪・遠藤保仁の「戦術眼」(後編)

text by 西部謙司 photo by Kenzaburo Matsuoka

どれだけの情報を事前に持っているか

 遠藤は、よくパスを“諦める”。ダメだと思ったパスは出さないと言う。

 そうすると、別の選択肢も持っていなくてはならない。プランAがダメで、他がノープランでは困る。ところが、明確に他の選択肢があるのかというと、必ずしもそうではない。プランAがダメで、もっといいプランBがあるなら、最初からそこを選択するだけの話である。変更は感覚と経験の領域になる。

 見た、ある選手が動いている、しかしそのパスはダメだと判断した。そのとき、ボールを持って止まっていられる時間は、通常2秒ぐらいだろう。それ以上、探していると背後からボールをかっさらわれることになる。最初に見た場所がダメなら、次に見る場所は確実にパスがつながる場所でなければいけない。次の次を見る時間はない。

 ここでものをいうのは、どれだけの情報を事前に持っているか。プラティニやチャビのように、どん欲に見ていれば、あるいは何かを拾えるかもしれない。最初に見た場所の周辺、つまりパスしないと決めた選手の近くや向こう側に、何かが落ちている可能性はある。情報収集能力の高い選手は、目の端にとらえた残像でも利用できる処理能力を備えているものだ。

 もし、そこに何も使える情報が転がっていなければ、あとは予測になる。ここを見ればいるはずだ、という場所を見る。いい場所を探すのではなく、当ててしまうのだ。ここは感覚的な部分であり、経験値でもある。遠藤ほどの選手なら、だいたいここにいるだろうという予測で外れないと思う。

 万が一、そこもダメだとしても、まだ詰みではない。ボールを持って止まっていられる時間は2秒ぐらいだろうと書いたが、前面にいる敵は視野に入っているので問題ない。気をつけなければいけないのは、視界の外から襲ってくる刺客だ。ただ、それも遠藤クラスの選手になれば勘定に入っている。自分が詰みそうになれば、刺客が飛んでくる。背後からくる敵は遠藤の真後ろからタックルはできないので、必ず多少は回り込む。その瞬間に無防備でなければターンして外せる。外してしまえば、もう1回探す時間がもらえる。

 ざっと、このあたりまでを手順として持っていれば、何もわざわざダメなパスを出す必要はない。ボールを相手に渡すよりも、自分たちで持っていたほうがいいのは自明である。

 最後に、遠藤の凄みとして「自信」を挙げたい。一種の開き直りであり、気概でもある。

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