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Jリーグ 12年前

柏レイソルの育成戦略が示す、日本的な育成システムの構築法

text by 小澤一郎 photo by Kenzaburo Matsuoka


高い人間力と謙虚さを兼ね備える柏のアカデミー出身選手(写真は工藤壮人)【写真:松岡健三郎】

“アカデミー発”のレイソルらしいサッカー

“アカデミー発”のレイソルらしいサッカー。バルセロナをはじめ、サッカー先進国におけるスタイルの確立はトップチームからのトップダウン方式が主流だったが、吉田氏は当初からアカデミーで築いたサッカーがトップチームに吸い上げられていくボトムアップ方式が日本においては自然であり有効であるという考えを持っていた。それこそが、柏の育成戦略が目指すべき終着点であり、吉田氏は第3段階のイメージを次のように語る。

「ここのスタジアムで展開されるサッカーというのは、柏レイソルにとって一番大きな商品です。その商品自体が生きているというか、柏レイソルの血を流しながらプレーしていく。そうしたサッカーが『柏レイソルそのものである』と認知されることが第3段階であり、日立台に来るお客さんは応援を楽しみに来るのではなく、サッカーを観に来る。ハーフタイムショーがなくても、イベントがなくても、サッカー自体がエンターテイメントとなり、そのサッカー自体に喜びを感じて集まってくる。サッカーを中心に輪が広がっていくようなものがわれわれの描く第3段階です」

 第1段階を終え、第2段階にある柏レイソルのアカデミーではサッカーやコンセプトの統一のみならず、育成戦略や第3段階完了までの期間までもが共有されている。だからこそ、チームとしての勝利やタイトル、プロ輩出だけで満足するような指導者はいない。裏を返せば、柏は冒頭に挙げたような「アカデミー出身選手が何名在籍」「アカデミーから何名がプロ入り」という目先の数字を育成の評価基準としていないクラブなのだ。

 吉田氏は「イメージのためにユースの選手をトップ昇格させることも不可能ではないですが、どういう選手を育ててトップに上げていくのか、パーソナリティも含めた判断基準が明確にある」と言う。事実、柏のアカデミーでは早い段階から「柏レイソルでプレーすることの意味」を気づかせるような指導が行なわれており、「アカデミーで育ってきたことを感じさせるようなパーソナリティや責任ある言動ができなければ、技術的に秀でた選手でも上に上げることはない」という。

 酒井を筆頭に工藤、茨田、今は別のチームでプレーする指宿洋史(セビージャ・アトレティコ)、仙石廉(ファジアーノ岡山)ら全員がサッカーの技術や知性のみならず、高い人間力と謙虚さを兼ね備えているのは決して偶然ではない。その取り組みの成果が認められたからこそ、今クラブは「アカデミーがこのクラブの未来を作る」という確信を持って吉田氏に強化部長のポストを与え、さらなる育成環境の整備を進めているのだ。

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