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『王者の戦術論』―エゴイストを束ねるリーダーの哲学―ロベルト・マンチーニ(後編)

text by クリスティアーノ・ルイウ photo by Kazuhito Yamada

テベス、バロテッリ。癖のある個の扱い方

――次の質問は、カルロス・テベスについて、シーズン後半に復帰した彼は、さすがというべきか、実に重要な貢献を果たしてみせた。

「彼は常にシティにとって重要な役であり続けてきた。僕が来る前の2シーズンに絶対的エースとして君臨し、だが昨季の開幕を前にチームは大掛かりな補強を行うと、ならば当然の結果として、それまでにはなかったレベルでの競争が生じることになった。したがってカルロスは徐々に自らの中に不満を募らせていった、と。なんら不思議な話じゃない。

 プロであれば、しかもプレミアのトップレベルのクラブであれば至って当たり前のことだ。僕は彼と時間をかけて話し合い、互いの意図を確認し合うと、結果として彼は残留を決め、そのプライドに懸けてチームに絶大な貢献をもたらしてくれた。僕は、たとえ時として問題が生じるとしても、強烈な個性を持つ選手を好むんだよ。そして、彼のような癖のある個の扱い方を、たぶん、それなりに知っている」

――そしてもうひとり、おそらくはテベス以上に強烈なキャラのFWがもう一人。

「……その名は、マリオ・バロテッリ(笑)。カルロスは確かに“難しい”性格だが、しかしプロフェッショナルとしての姿勢は既に揺るぎなく確立している。一方で、このマリオの場合は少しばかり違っていてね……。備えている才能は紛れもなく本物なんだが、あの子は早くも21歳にして自らを“超一流”であると自覚してしまっている。この後に待ち受ける様々な困難をまだ今は想像できないでいるのだろう。そして、今はまだその誤りに気付いていない、と……(苦笑)。

 とはいえ、この1年でマリオが目覚しい成長を遂げたのは事実だよ。先のユーロでも才能が偽物ではないことを示してみせた。このまま、道を外さずに成長すれば、あの子は間違いなく世界有数のFWと呼ばれるようになるだろう。おそらくは、ナンバー1を目指せる。

 いずれにせよ、今となってはもはやマリオはこの僕にとって半ば弟のようなものなんだよ(笑)。なにより、彼の獲得を強く求めたのは他ならぬこの僕だからね。時に厳しく、時に優しく。その成長を促していきたいと思う。バロテッリとは、まぁ言ってみれば、この監督マンチーニの大いなる『賭け』でね、07年に17歳のマリオをセリエAにデビューさせたのは僕だし、当然のことながら負けるわけにはいかないんだよ。なにせその賭けに張った額(移籍金=約28億円)は半端じゃないしね(笑)。

 とにかく、あのマリオは来季、これまでとは明らかに違うプレーをみせるはず。先のユーロで実力の一端を示した彼は、自らの価値を証明しなければならないという、その言わば強迫観念にも似た重圧から解き放たれているしね。

 そして、この僕もまた同じ。『10番は名将たれず』を覆すという責任の規模は昨季の勝利によって著しく軽減されたのだからね。とまぁ、それは冗談として、何にしても来季のシティがみせるサッカーは大きくその質を変えることになるだろう。もちろん、その変化が『成長』と同義であることは言うまでもない。

 プレミアの連覇を、そしてもちろん、CLも狙いに行くよ」

【了】

初出:欧州サッカー批評6

プロフィール

ロベルト・マンチーニ
1964年、イタリア・イェージ出身。ボローニャFCのユースを経て、1977年に17歳でプロデビュー。82年から97年までサンプドリアに在籍。後にSSラツィオへ移籍した。00年、ラツィオでコーチを務め、01年にイングランドのレスター・シティFCで現役復帰。1ヶ月後に現役を引退。01年にフィオレンティーナの監督に就任。その後、ラツィオ監督を経て、04年からインテルの監督に就任。リーグ3連覇を果し、08年に退団した。09年よりプレミアリーグ・マンチェスター・シティFC監督に就任した。

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