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セリエA 12年前

長友佑都と森本貴幸の現在地(後編)

text by 神尾光臣 photo by Kenzaburo Matsuoka

 とはいえ、試合出場までの道のりは平坦ではない。フォーメーションが日替わりなインテルとは違い、こちらのスタメンは常時固定。それによって築かれた選手間の連係を武器としているため、割って入るのはただでさえ難しいのだ。

 おまけにセンターフォワードにいるのは、積極的に動いてボールを引き出し、中盤を助ける動きにも長けるベルヘッシオ。一方の森本は純粋なストライカータイプで、仕事場はエリア内に限定されてしまう。戦術面で言えば不利な立場にあり、アピールにはやはりゴールしかない。

 彼のスランプは正確には怪我ではなく、エースでありながらチャンスで決められず、時には「試合に勝てなかったのは僕のせいだ」と自らを責めた、09-10シーズンの不振に始まっている。過去の記憶を払拭するゴールに期待したい。

森本と長友はなぜイタリアに適応できたのか?

 移籍してくる日本人にとって決して優しいとは言えないセリエAで、生き残っている長友と森本には、一つの共通点がある。

 それは精神的な壁を作らず、周囲に自分を伝えることがうまいということだ。18歳で移籍し、若者の言葉を覚えることから入った森本に関しては言わずもがな。そして長友は、持ち前の明るい性格でチームメートやチェゼーナ、インテルの関係者を虜にした。ミランからの移籍間際、「あいつはチームの輪を破壊する存在だ」とベルルスコーニから恨み節を言われたカッサーノも、ゴール後には長友を呼んで一緒にお辞儀パフォーマンスをやるほどだ。

 四六時中サッカー談義が飛び交う環境で、選手へのプレッシャーは並大抵のものではない。だがその中で生き続ける術さえ身に付ければ、厳しいプレッシャーは選手を磨く糧と変わる。長友は試合ごとに技術の上達が見られ、フィードなどは必ず前線に通せるようになってきた。森本も今は苦しんでいるものの、点が決まらずに叩かれるという、得難い経験を積んでいるのもまた確かだ。「個人がレベルアップしないと、W杯でも上へ行けない」

 今シーズン、長友はそう繰り返す。セリエAでの濃密な時間を増やすことが、日本代表へとより良い還元をもたらすことを、長友は知っているのだ。

【了】

初出:フットボールサミット第9回

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