すっかりビッグクラブの選手らしくなった
しかし、ストラマッチョーニ監督の長友に対する信頼の大きさがもっと如実に現れたのは、次の第6節、9月30日のフィオレンティーナ戦だ。今季の彼らは中盤にはダビド・ピサーロやビジャレアルから移籍してきたボルハ・バレーロらを擁し、イタリアでも有数のポゼッションサッカーを展開している。
そのパスをサイドで呼び込み切り崩し役となるのが、右ウイングバックのコロンビア人ギジェルモ・クアドラードだ。昨シーズンに所属したレッチェでは、80m5人抜きのドリブルでゴールを決めたこともある強敵である。
ストラマッチョーニはマッチアップする選手として、国際経験が豊富なペレイラではなく、長友を選択した。彼は試合前、長友を一人呼びつけて、こう激励したという。「彼は本当に素晴らしい選手だ。でもお前の方が速いから止められる。信頼してるからな」
長友も「それに応えよう」と、懸命に奔走した。クアドラードがボールを持てば、利き足である右のコースは徹底して切り、裏へ走ることさえ許さない。仕方なく中へとドリブルでカットインすれば、それにもついて来る。股抜きをされれば、すぐさまボディシェイプを変えて、コースを切ってボールを奪う。
そして集中力を研ぎ澄ませるうちに、ビッグプレーもやってのける。
19分、カットインしたクアドラードからボールを奪い、ミリートへ預けると右のスペースへ駆け上がる。ボールを受けるとすぐさまプレスを掛けられるが、それを鋭いターンでかわし、すぐさま左のオープンスペースへ攻め上がっていたカッサーノへ、正確で速いサイドチェンジを通したのだ。
最終的にその流れは、カッサーノのパスからミリートのシュートがクロスバーを叩くという形で完結。ゴールこそならなかったが、モウリーニョ時代を彷彿とするダイナミックなカウンターを、長友が創り出していたという光景に、見ていた私は身震いがした。
試合は2‐1で勝利。クアドラードを封じた長友は、終盤にオーバーラップを連発し、アルゼンチン人DFゴンサロ・ロドリゲスの退場も誘っていた。「今季初めてビッグクラブらしいプレーだった」と指揮官が胸を張る、会心の内容に貢献。3バックになり、長友の良さは攻守に渡って引き出されている。しかし、コンスタントに結果を出すことができなければ、すぐに批判されることも、彼はよく知っている。「これからですね、それも。まだ一試合勝ったからといって、良くなったとは限らないし」
冷静な一言は、すっかりビッグクラブの選手らしくなっていた。そう、今シーズンの彼に求められるのは、チームの勝利そのものなのだ。