澤穂希がアメリカからI神戸に移籍した理由
なでしこジャパンの主力である澤穂希、大野忍、近賀ゆかり、そして元代表の南山千明の4人が、昨季リーグ覇者の日テレ・ベレーザ(以下、ベレーザ)から移籍。加えて、韓国からはU-20代表2名が加入――。
今年の日本女子サッカーリーグ(なでしこリーグ)で開幕前から話題の中心となっているのが、INAC神戸レオネッサ(以下、I神戸)だ。もともと3人の代表選手を抱えていたクラブがケタ外れの補強を行ったのだから、それも当然である。I神戸はベレーザや浦和レッズ・レディースを上回る戦力を手に入れ、一気に今季の優勝候補最右翼に踊り出た。
ベレーザ勢の移籍の背景を簡単に説明しておく。
現在経営再建中の東京ヴェルディはコスト削減の一環として、女子部門ベレーザのプロ契約制度を昨季で打ち切った。そこで澤や大野は引き続きプロとしてプレーするためI神戸入りを決意し、ベレーザではアマチュアだった近賀と南山も、より高いステージを求めて移籍を決めたのである。I神戸はなでしこリーグで唯一、所属選手全員が実質的なプロ待遇でプレーしている。そして星川敬監督は、昨季途中までベレーザの監督を務めていた人物。澤たちにとってI神戸は、移籍しやすい条件が揃っているクラブだった。
チームが始動して間もない2月初旬、練習を終えたばかりの澤に話を聞いた。
「ここの環境はすごいと思います。日が出ているうちに練習ができて、夜ゆっくり休めるのは、体のケアを考えると本当にありがたい」
I神戸ではシーズン中でも午前、午後の2部練習を行うことが珍しくない。その場合は、昼食と昼寝の場所まで提供される。日中は仕事や学業を抱える選手が主体のなでしこリーグ他クラブでは、望むべくもない厚遇だ。いや、アメリカのプロクラブでさえ及ばない。
「ワシントンでは、2部練習なんてキャンプの時にやった程度。ランチは自前だし、昼寝をする時間も場所もありませんでした」
一昨年、昨年と、澤は米プロサッカーリーグWPSのワシントン・フリーダムに所属していた。春から夏までのWPSシーズンが終ると古巣のベレーザに期限付き移籍し、なでしこリーグの終盤と全日本女子選手権を戦って翌シーズンまたアメリカに戻っていた。しかし、彼女は昨年限りでワシントンを退団している。