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アンドレア・ピルロ 天才レジスタの「戦術眼」(後編)

text by クリスティアーノ・ルイウ photo by Sinichiro Kaneko/Kaz Photography

――ただ、これまでの話は大半が“短いパス”に関するものだと思うんだけど、ところがレジスタ・ピルロの凄さは他にもある。とりわけ顕著なのが中・長距離のパス。この精度でピルロに勝るMFはいないと言われている。

「かどうかは分からないけど……(笑)。でも、この長いパスに関して僕から言えるのは、それが決して“偶発的”つまり“意図しないもの”であってはならないということだね。どんなパスであれ、後方からのパスはそのすべてが常に考えられたものでなければならない。苦し紛れに蹴るクリアのようなボールは組み立てに際してあってはならないということだね。

 でも、その実、この手のパスが一番簡単なんだよ。40、50mといった長いパスでも、多くの場合、そこには必要な“時間”があるからね。それに、例えば前線でDFラインの裏に抜けようとするFWがいるとして、でもそのFWがスタートを切る瞬間を僕らMFは正確に目視することができるのだから、最高のタイミングを計る時間もあれば、パスの種類を選択する時間もある。

 後は……、実際にそのパスを正確に通せるか否かってことになるけど、でもそこはもう唯一、その選手が持つ技術だけが問われるわけだからね。感性というのか、感度というべきなのか、その繊細さを高いレベルで足先に備えておく必要がある。そして敢えて言えば、幸運にも神様は僕の両足にその大切なものを与えてくれた」

ミランを去ったのは、僕が“終わった”からじゃない

――そのアンドレア・ピルロは、しかし昨シーズンの終了をもって10季在籍したミランを退団。今年5月には33歳になる。名門ユベントスに移籍するも、実に多くのメディアが“既に終った選手”と評していた。ところが、いざ蓋を開けてみれば瞬く間にミラン時代と同じように中心選手となり、首位を走るユベントスに絶対不可欠な存在となっている。周囲の予想を完全に覆してみせた今季これまでの活躍、復活の要因は一体どこにあるのだろうか。

「そう誰もが言うんだけどね……。でも実際のところ僕自身はホントに僅かさえも“復活”だなんて思っていないんだよ。ミランを去ったのは、あくまでも技術・戦術的な理由であって、なにもこの僕が“終わった”からじゃない。長くミランの戦術における要の役を担ってきたわけだけど、その10年目を終えたところでクラブの意図が今までとは違っていたというだけ。時は色んなことを変えていくからね(笑)。

 決して珍しい話じゃないと思うんだ。ミランの今季へ向けたプロジェクトの中心に僕の名はなかったわけだよ。ならば変えるより他なかった。そしてユベントスこそが最も強く僕を必要としていて、その他ならぬ彼らのプロジェクトの中心には、『アンドレア・ピルロの名が書かれてある』と、そうクラブの首脳が言ってくれたんだ。

 確かに今季の僕を指して多くの人が“復活”と言うけど、当の僕の中では何一つ変わったことはない。『10年に渡ってピルロはこのレベルでプレーしている。なのになぜ今にして皆は驚くんだ?』と、去年のクリスマス前にプランデッリ(代表監督)が言ってくれた通り。変わったのはユニフォームの縦縞の色だけだよ(笑)」

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