多国籍化の中で若手は恩恵を受けられるか
――ウェイン・ルーニーの成熟、他にもキャロルやウェルベック、チェンバレンやヘンダーソンなど、国内の才能は育っているように思いますが、多国籍化の中で、若手は恩恵を受けるのでしょうか。
「仮に最も若い選手年齢を18とし、最高齢を38とすれば、言うまでもなくその差は20。当然、これだけの幅があれば各世代間にみる違いは多岐にわたる。これをどう融合させるか。また、国内外の選手の数でも両者の比率が拮抗し、あるいは国外の選手が過半数を超えている今、均衡を取るのは容易ではないのだろうが、いずれにせよ、どちらかに偏ってはならない。
しかしプレミアの強さは、極めて優秀な監督を持っていることだ。アーセナルのベンゲル、そしてユナイテッドを長期にわたり率いるあの偉大なるサー・ファーガソン。ベテランと中堅、若手を組み合わせる手腕に最も長けたこの2人の監督は、たとえグローバリズムが席巻しようとも、本国の才能を見失うことはない。才能を見極める上で、国籍や年齢の区別などが不要であることを彼らは知り抜いている。それが、2人に共通する監督としての“長寿”の秘訣だろう。
彼らは、サッカーすなわちフットボールが僅か1シーズンで終るものではないことを、単に理論としてだけではなく、“実質的”に知っている。常に先を見据え、その優れた先見性を持つからこそ、彼らは若手の育成を怠らず、出てきた芽を摘むこともなく、機を逃すことなく必要な経験の場を若い選手に与えることができる。もちろん、彼ら2人はクラブの経営収支という重要な課題を絶対に忘れることはない。ベンゲルとファーガソン、実に優れた勇気ある監督たちであり、まさに『プレミアの財産』と言えるのだろう」
プレミアのクラブの個性
――プレミアの歴史、のみならず代表において、「財産」と言えば、やはりジョン・テリー、フランク・ランパード、スティーブン・ジェラード。近年のイングランドのフットボール史を築く上で柱となってきたこの3人をどのようにご覧になっているのでしょうか。
「すべての偉大なる選手たちがそうであるように、なにもランパードは最初から今の彼であったわけではなく、もちろんジェラードやテリーも同じ。長く続けてきた努力の賜物として才能を開花させ、長く維持するための努力も怠らなかったからこそ、彼らは今の地位を築くに至った。
中でも、今だから言える話なのだが、この私が個人的に最も厚い信頼を寄せていたのはテリーだ。正真正銘の旗手であり、すべての選手にとっての模範。こうした存在を、果たして今後5、または10年というスパンでイングランドは見出せるか。言うなれば、あの3人の後継者たることは、それこそ至難の業だ。だが、これをできなくしてイングランドの復権はない」