プレミアと代表は異質なもの
――ミスター、イングランド代表監督の座から退いて半年、つい先頃に「ユーロ2012」が終ったわけですが、その大会に臨んだイングランド代表にどのような印象を持たれたのでしょうか。
「イングランドの代表とは、フランスやイタリア、オランダ、スペインやドイツと同じように、いついかなる場合でも常に『勝つために大会に臨む』。これを義務とする代表だ。しかし、残念ながら今大会で彼らは4強の枠に入れぬまま姿を消してしまった。これは言うまでもなく、前述の『義務』を果たせなかったことに他ならない。したがってこの私の胸中を言葉にすれば、必然的に『失望』となる。
ただ、ここでの私はもちろん、君が最初に言ったように、既に彼の国の監督の座から降りて半年になる。したがって客観的に、ある一定の距離を置きながら話していることをまずは理解していただきたい。つまり、『仮にカペッロが監督であればユーロでの戦績はどうなっていたのか?』のような質問には答えられないし、またそれを語る資格は今の私にはないということ。なにより、懸命に現場での指揮に当たった現監督に対する敬意を欠くような真似は絶対にできない。
この前提の上で、あくまでも客観的に見れば、ユーロに臨んだイングランド代表は実に良質なチームであったと思うし、優れた選手も少なくはなかった。だが、やはりと言うべきか、ひとつの大いなる欠点を抱えていたことは否めない。正しくは、その欠点を知りながらも遂に完全に克服することなく本番に臨んだ、と。そして、その欠点こそが今大会における彼らの命運を分けたと言えるはずだ。
それは、あの大会を見た人であれば誰もが気付いたことなのだろうが、『守備という文化の欠落』に他ならない。欠落という言葉が余りに厳しいとすれば、『希薄』と言い換えてもいいだろう。いずれにせよ、今大会のイングランドは、特にあのイタリアとの試合で最も顕著だったように、守備の重要性に気付いてはいたものの、過去に長くその文化の構築をやや軽視してきたがために、いざ技術力で圧倒する相手を前にしたとき、『単に守るためだけの守備』に陥ってしまった。