なにげない行動で周囲に理解させる
実際、ステーフェンス監督が就任してからしばらくの間は、試合で起用されたり、起用されなかったり、評価が定まらない時期もあった。ときには、スタメンはおろかベンチ入りのメンバーから外れることもあった。ちょうど、昨年の秋から冬にかけての時期だ。この時期を耐え忍んだ内田は、冬にリーグが中断している時期に行われたキャンプに良いコンディションで臨み、監督からの評価を覆すことに成功する。
冬から春にかけて、再びコンスタントに試合に出られない時期を迎えたものの、それが過ぎると、監督からは気持ちを前面に出すことはなくても、闘志を内に秘めている選手なのだとようやく思われるようになった。
それは、ステーフェンス監督が就任してからというもの、内田が練習や試合への取り組み方を変えることがなかったからだろう。こうして、シーズンオフにはシャルケ首脳陣と監督からの信頼を得て、契約延長を勝ち取ることが出来たのだ。
内田がドイツ語でのコミュニケーションが苦手なだけで、コミュニケーションをとることを避けているわけではないと監督から理解されるようになったことも大きいだろう。内田も監督とはさりげなくコミュニケーションをとるようにしている。練習の合間には監督が歩いている背後から近づいて、監督の股の間にボールを通してみせる。
特別な言葉をかけなくても、監督は内田がコミュニケーションをとろうとする意志があると、なにげない行動から理解することが出来る。
内田が持つ、確固たるスタイル
こんな一コマもある。ハードな走り込みを中心としたトレーニングを終えた後、監督が内田に「今日の練習はきつかっただろう?」と簡単なドイツ語で声をかけると、内田はきつかったとは言わずに「ありがとう」と短く返す。そんなやりとりから、監督は内田が決して弱い選手ではないと判断できるようになったのである。
昨年の秋から冬にかけては、ベンチに入れず悔しさをかみしめる日々もあったというが、それでも自らのスタイルを変えない。そういうひたむきで一貫した姿勢が、エゴを持つ選手たちがひしめいているドイツでは評価されることもある、ということを内田は示している。
このように内田には確固たるスタイルがあり、日本とは異なる環境に置かれたからといって、それを安易に変えることはない。その一方で、リベリーのマークを命じられたときやチームとしての守備の方法に従うべきときなどは、徹底してそれに合わせる。そうした何事にもはっきりとした態度で臨む姿勢が、内田を現在の地位に押し上げることになったのである。
【了】