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内田篤人の流儀―内田篤人が海外のクラブで成功を収めた理由(前編)【フットボールサミット第9回】

text by 編集部 photo by Ryota Harada

 内田は少しくらいの困難に直面しようとも、決して弱音を吐いたり、くじけたりすることはない人間なのだ、という事実を言葉ではなく自らの行動をもって示した。こうしたふるまいは、言葉を用いて「自分はメンタルの強い選手だ!」とアピールするよりも、はるかに説得力がある。(言わなくてもわかります)

 ドイツ語を思うように話せないからこそ、内田が奮闘した例は他にもある。

リベリーと心中する覚悟

 例えば、ブンデスリーガの強豪バイエルンとの試合でのエピソード。右SBの内田はバイエルンの左MFを務めるリベリーのマークを命じられた。すると、試合では徹底したマークでこのフランス代表MFから自由を奪い、チームの勝利に貢献した。実は、ドイツには「一対一」の文化がある。各選手の試合時の一対一の局面での勝率はすべて集計され、データ化されている。そのデータをもって監督が選手の実力を判断することもあるし、ファンがその数字をもとに選手の評価を論じることもある。それくらいドイツサッカーには欠かせない要素なのだ。

 多くの日本人選手は、日本において守備のカバーリングについて叩き込まれているため、一対一を重視するドイツのスタイルには戸惑いを見せることがある。しかし、内田は自らに課された役割をしっかりとこなすことが大事だと考え、カバーリングは多少おろそかになったとしても、リベリーから自由を奪うことを最優先に考えた。試合には「リベリーと心中する」くらいの気概で臨んだという。

 リベリーの自由を奪う一方でカバーリングが思うようにいかないことがあったが、試合後に待っていたのは監督とチームメートからの絶賛の嵐だった。この国の基本である、一対一の局面でリベリーを抑え込んだからだ。その結果、内田への信頼感は一気に増した。例えば、シャルケボールのコーナーキックの際には、自陣の前、中央のポジションをとり、相手のカウンターに備える中心的な役割を担うようになった。内田は自らのポリシーを簡単に曲げることはない。しかし、周囲の意見や監督から与えられてた役割に従う必要があると判断すれば、それを徹底的にこなしてみせるのだ。バイエルンのリベリーとの対戦はまさにその好例だった。

【後編に続く】

初出:フットボールサミット第9回

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