移籍金撤廃の新ルールは頭の痛い問題
しかし、広島にとっても移籍金撤廃の新ルール移行は頭の痛い問題だ。早くから育成型クラブを志向していた広島は、過去に久保竜彦(→横浜F・マリノス)、藤本主税(→名古屋)の移籍金で育成環境の充実をはかっている。森山監督が案内してくれた寮に隣接する人工芝のミニコートも移籍金によって作られた施設の一つ。
その森山監督も「柏木、槙野がただ同然で出て行ったというのは痛いですよ。彼らが残した移籍金で施設ができるとか、違う選手が獲れるとか、育成の方にもお金が回ってきて海外遠征に行けるとかあればいいんですけど。そういう形じゃなくて彼らほどの選手がクラブに何も残さずに出て行ってしまうというのは、ちょっと不幸な制度かなと思います」と現状を危惧する。
織田部長も新ルールに沿った0円移籍続出の傾向に対して「正直に言うとアイディアがない」と語る。このテーマは別のページで取り上げることになるにせよ、広島のようなクラブが育て損にならないための対策をクラブのみならずJリーグ全体で考えていく必要性はあるだろう。
きれいな花は、しっかりした根からしか育たない
最後に織田部長にサンフレッチェ広島としての将来のビジョンについて聞いた。
「クラブ全体のことを考えれば、広島だとかこの地域の人、あるいは日本全国から愛されるクラブにしたい。『サンフレッチェのサッカーいいね』とか『面白いね』、『選手感じいいよね』と好意的に評価して頂けるようなクラブにしていきたい。チームに関していうと、タイトルを獲りにいくという姿勢を持っておかないとダメだと思います。広島の規模のクラブが、タイトルを取るためには、常にトップ7には位置できているようなチーム力を持っておかないと。楽観的な言い方かもしれませんが、何年に一回か、いい巡り合わせの時には上に食いつけるようなチーム。基盤が強いチームにしていきたいですね」。
限られた予算規模を嘆くことなく、「幸せな関係」という逆転の発想で育成型クラブの土台をこの10年で地道に築き上げたサンフレッチェ広島。取材後、森山監督にお礼のメールを入れると、返信メールにこうあった。
「きれいな花や大きな実は、しっかりした根からしか育たないと思っています。その根を這わせる作業が育成だと思います」。クラブとして根を這わせる作業を行ってきた広島からは、きれいな花が咲き始めている。
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