広島が「育成型クラブ」を掲げる理由
フロントの育成に対する理解。森山監督がコーチ時代を含めてユース指導者として12年目を迎える長期政権を築くことができているのは彼の育成手腕はもちろん、フロントの理解があるからだろう。それを生み出すのは、繰り返しになるがクラブ哲学である。織田強化部部長は、「広島らしい選手は?」という質問に対しても、「森崎兄弟や槙野のように、技術があってハートもあって、ハードワークできる選手」と即答する。
クラブとして選手像までを明確に定義しているところに哲学の浸透具合が見てとれる。また、森山監督に広島の育成が機能している理由について聞くと、「幸せな関係」という言葉を用いてこのような説明があった。
「まずユースから上がってくる選手、ユースの存在自体を必要としているというところは幸せで、ユースとトップチームとの幸せな関係がありました。いい選手をお金で買ってこれないというところからスタートしていますから。高萩、高柳、森脇の代がごっそり上がった辺りの広島は、まだまだJ1で下位を争う成長過程のチームだった。ただし、もしかすると今よりも幸せな関係だったかもしれません。今は中堅の財力、戦力になってきたのでそれ程たくさんの選手を上げる必要はなくなってきたんですけど、それでもトップはユースから上がってくる選手を必要としています」
今季ユースからは井波靖奈の昇格しかなく、生え抜き選手の数は昨年の12人から9人に下がった。とはいえ、過去16年で50人、年平均3・13人のプロ選手を輩出している広島ユースの存在感は際立っている。本谷社長は、「育成型クラブ」を掲げる理由についてこう語る。
「地方クラブというのはやはり育成をしながら選手をトップに上げていくところをやらないといけません。チームを作り直すという時に全部他から集めるというのが難しいですから。ベースは自分たちで育てた選手であり、今トップにいる、なおかつ今ユースにいる選手たち。それで足りない部分を補強でまかなっていくというやり方を志向していきたい」