トップからユースまで一貫したコンセプト
このようにクラブ哲学の確立による効果は様々な面に及んでいるが、最も顕著に現れていると感じたのが育成面だ。先に結論を書くと、育成型クラブを目指すのであれば、クラブとしての哲学を確立し、結果に左右されず5年、10年のスパンで継続する必要があるということ。育成面での成功を検証すべく、ここからは昨年高円宮杯全日本ユースで優勝した広島ユースの森山監督の話を中心に進めていく。
2002年8月から広島ユースの監督を務める森山監督は、今や日本のユース指導者の第一人者であり、「育成のスペシャリスト」として全国的に知られる存在。しかし、森山監督といえどもクラブやトップチームのコンセプトに沿った育成を行っている点は、あまり知られていない一面であろう。広島ユースはトップチームと同じシステム、戦い方を貫いており、選手のポジションについても固定することなく、トップチームの流動的でポジションの概念に縛られないサッカーに対応できる選手を育てようとしている。
経験を積ませるためにユースの監督を、というのは首をかしげざるを得ない
トップチームとユースの整合性について森山監督はこう語る。
「うちみたいに継続性があればある程度浸透させるようなやり方ができます。しかし、トップの監督が首になって、全く違う監督が来た時、ユースはその瞬間にそれに合わせてやらなきゃいけないのかという世界があるじゃないですか。僕は、ユースの指導者は選手がどこに行っても、どんなやり方のところでも適応できるような選手を育てることが大切だと思っています。今のやり方、システムはトップと同じですけど、別にその選手がどこに行っても通用するようにはしています」
Jリーグ全体で見るとまだまだ広島のようなクラブは少なく、それは森山監督も同じ認識を持っていた。「Jユース自体も段々色が出てきていると思うのですが、ある意味上とはつながっていない形で色が出ているチームもあります」。要するに監督の色がユースチームとしての色になっているチームがあるということ。
「(J育成組織は)指導経験の浅い、選手を終えたばかりの指導者が多い。2年、3年やってようやく分かり始めたらその上に引っ張られていくのはあまりいい図じゃないなと思います。ただ、逆に上を経験した人が降りてきたり、実際に育成の指導経験が結構長い人もいるので、そういうチームが増えていって欲しいなとは思っています。そのためには現場レベルじゃなくて、オーナー側とか、部長とかフロントの育成に対する理解がないとすごく難しい。
理解されなければいけない部分が理解されていなかったりしますから。それは大きな問題で、それは僕らが変えるのは難しい。僕はそういうことに理解のあるクラブにいるのでラッキーですけど、そうじゃなくて結果が出なかったから交代とか、こいつはいい選手だったからトップに上がる前に下で監督を経験させておこうとか、そういうプロセスでユースの監督をされるのは正直どうかなと首をかしげざるを得ません」