互いに刺激しながら日韓で世界トップに
――池田さんには「日本のノウハウを韓国に流している」という批判もあったのではないかと思いますが、それについてはどうお考えですか?
「確かにそういう見方をする人もいるかもしれないけど、日本のノウハウを横流ししたという感じはないですね。自分のトレーニングは、全く独自の考え方ですし、僕はアジアのレベルを上げるためには、日韓が切磋琢磨すべきだと以前から考えていました。日本はロンドン五輪で韓国に負けたけど、次は勝つ方法を真剣に模索するだろうし、韓国も努力する。明甫さんも五輪のドローの時、第1シードにアジアの国が入っていないのを見て、『五輪でもW杯でもアジアが第1シードに入るようにしたい。そうしないと頂点までたどり着かない』と言っていましたから。
実際、日本サッカー界にもお互い協力し合おうという『器の大きさ』がありますよね。例えば京都のチョンウヨンの話ですけど、彼は一度最終メンバーから外されて、クラブでのモチベーションが下がっていたかもしれない。それでも、ハングギョン(湘南)が疲労骨折を負って代役として招集された時、監督の(大木)武や祖母井(秀隆=GM)さん、高間(武=テクニカルディレクター)さんは快く送り出してくれましたからね。
それに今回、韓国五輪代表は7月2日から選手を招集した。でもこれは国際Aマッチデーではないから、協会に拘束力はないですよね。現に、日本代表の方は7月2日、3日と9日、10日のJリーグで2試合を戦わせて、選手を招集するという配慮をした。にもかかわらず、Jリーグの全クラブが大韓協会のやり方に協力してくれた。『ツーロン国際大会や短期のキャンプには選手を呼ばないから、五輪本番前に協力してほしい』と明甫さんや僕も日本に通ってお願いしたこともありますけど、正直なところ、日韓が逆ならムリだったかもしれない。僕はJクラブに対して深く感謝しています。こうやってお互い協力し、刺激を与えあいながら日韓が世界トップに上り詰めるようにしていきたいですね」
――今回の韓国での経験を今後、どう活かしますか?
「韓国五輪代表のフィジカルコンディショニングのデータを日本で活用できればいいんですけど、選手は生もの。選手個々の特徴やメンタリティ、ケガの既往歴などで、対応がまるで違うからこそ難しい。それにフィジカルコーチの仕事は長年の経験や感性の世界による部分も大きい。僕はまず自分自身のレベルをもっともっと上げなければいけないと考えています。同時に日本のフィジカルコーチの環境を整備することも必要ですね。正式なライセンスもないので設けるべきですし、教育や実践の場を増やさないといけない。それも長年、フィジカルコーチとして働いてきた僕の仕事のひとつかなと思います」
【了】
プロフィール
池田誠剛(いけだ・せいごう)
1991年に東日本JR古河サッカークラブのアシスタントコーチに就任。その後、ジェフユナイテッド市原ヘッドコーチ、フィジカルコーチを経て、94年のW杯に出場したブラジル代表に同行。95年にACミランで研修を経て、97年より横浜マリノスフィジカルコーチに就任。06年には横浜F・マリノスチーフフィジカルプロフェッサーとなり、07年11月から4月まで釜山アイパークの臨時フィジカルコーチを務める。08年より浦和レッドダイヤモンズアカデミーセンターフィジカルコーチに就任。11年、韓国五輪代表フィジカルコーチを経て、12年から浦和レッズに戻り同職に。