朴鐘佑は『どうしてもご家族に謝罪したい』とホテルまで来てくれた
――その後、朴選手と何らかのやりとりはあったのですか?
「ありました。大会が終わってソウルに戻り僕の家族が日本からやって来た際、彼は『どうしてもご家族に謝罪したい』とホテルまで来てくれました。僕は『そんなことはしなくていい』と言ったんですが、『どうしても謝らせてほしい』ということで来て、深々と頭を下げていました。本人も深く反省していたし、その気持ちは本物だと僕は信じています」
――3位決定戦の後、ホテルが同じ日韓両チームの選手の様子はどうでしたか?
「大勢の日韓の選手たちが試合の晩にラウンジで一緒に騒いでいるところを見ました。日本の選手だって、誰よりもメダルを獲りたかったはずだし、負けた悔しさはひとしおだったでしょう。それを受け入れられないことも間違いではないにしろ、それでも敗戦に区切りをつけ、お互いの健闘をたたえ合う懐の深さを持っている。そんな日本の若者の姿を見て、自分が日本人であることを心から誇りに思いました。五輪の後、しばらくの間は朴鐘佑の事件ばかりが報道されましたけど、僕はサッカーの素晴らしさを再認識したし、そのことを改めてみなさんに伝えたいと強く思いました」
――今回のロンドン五輪で活躍した池東源(サンダーランド)のように、韓国には長身で競り合いに強いFWが伝統的にいますが、育成面で何か特別な取り組みをしていたのでしょうか?
「韓国は1人で何でもやる『お山の大将』を否定しないところがある。『こいつに預けおけ』ということもありだし、そうした選手はどんどん伸びていく。過去を振り返ってみても、黄善洪、崔龍洙(FCソウル監督)、李東国(全北現代)と大型ストライカーが次々と育ってきました。ただ、以前に比べると激減している。トータルフットボールの弊害なのか、ポジションごとの役割が明確になったことで、お山の大将も消えてしまった。池東源も長身だけど、かつての大型ストライカー的な選手じゃないし、具滋哲(ヴォルフスブルク)も、朴主永もセカンドアタッカー。日本と同じでMFがすごく増えていますよね。今は大韓協会の技術委員長を長年、大分トリニータで働いていた皇甫官さんが務めていて日本からの影響も大きい。韓国サッカー界も過渡期を迎えているのは確かでしょう」