ベトナム人の生活を一変させたプレミア・リーグ
青息吐息のヨーロッパ経済を尻目に、繁栄の限りを尽くしているのが欧州サッカーである。個々のリーグやチーム事情を見れば、スコットランドリーグ、グラスゴー・レンジャーズの破綻やスポンサーの撤退が問題となったスペインリーグの下位チームなど、不況の煽りを受けての地盤低下に見えるようなニュースも多いが、プレミア・リーグの移籍金合計数の推移を見ても、まだまだ右肩上がりの状況は止まらない。
最近であれば、ロシアの富豪がオーナーとなったアンジ・マハチカラ、カタールの王族がオーナーになったパリ・サンジェルマンが大規模予算を投入して、スター選手の獲得に走るなど、世界中の投資マネーがサッカー界に流れ込み続け、欧州の経済不振を補ってあまりある事態になっているのだ。
欧州サッカーに世界中からお金が集まるのは、それが近い将来、もっと大きな金を生む卵と目されているからだ。
現在、イングランドのプレミア・リーグ、ドイツのブンデスリーガなどのリーグを放送する国は約200ヶ国。中でも欧州サッカーに繁栄をもたらすと思われているのは、急速に中間層を生み出している東南アジア諸国である。
例えばベトナムでは、サッカーが国民的な人気スポーツに急成長した。日本と違うのは、圧倒的にみんなが見ているのは自国の代表やリーグではなく、イングランドプレミアリーグであるというところだ。国民の5人に1人がマンチェスター・ユナイテッドファンであるというデータもあるくらいだ。
ベトナムでプレミアのテレビ中継があるのは、日本と同様深夜である。ベトナムでは、国民の少なくない数がプレミア・リーグを生中継で観戦することを生活に組み込み、サッカー観戦に合わせた生活を送っているという。アジア進出事情に詳しい川端基夫・関西学院大学教授の指摘によると、こうしたサッカー中心のベトナム人の生活に夜食が欠かせないものとして、エースコックのインスタントラーメンが馬鹿売れしているのだという。ベトナムの即席麺の需要は世界第4位。サッカーは、ベトナム経済そのものを動かす原動力になるとともに、ベトナム人の生活、経済、文化を変えてしまったのだ。
地域差はあれど、東南アジア全体が欧州サッカーの虜になっているのは間違いない。それは、ヨーロッパのサッカー中継を見ていても、スタジアムの広告に、中国語やタイ語、ベトナム語が混ざるようになっていることからもよくわかる。
欧州の有力クラブのシーズンオフのツアー先も、中国や東南アジアが定番になりつつある。昨シーズンオフも、アーセナル、チェルシー、リバプールといったプレミアの人気チームがツアーを行ったのは、中国、マレーシアなどである。かつては、彼らが日本に来ていた時代もあったが、いまはスルー。淋しい限りである。
Jリーグは今年からタイ、インドネシア、ベトナム、マレーシアの4ヶ国で、無料中継を始める。国内で行き詰まりつつあるJリーグの収益を、将来的に海外の放映権料という形で増やす戦略である。プレミアリーグが見られる地域で、いくら無料だからといってJリーグを見るだろうか。