グレーのスタンスから目指す横河武蔵野FCの理想像
そこに3つめの意義がある。地域への浸透。
勝ち負けにかかわらず自分の街のクラブだから応援する、というサッカー観を持ったサポーターを引き寄せるヒントについては立花コーチが気づいていた。
「サポーターが声を張り上げて応援してくれるのはどんなときか。ぼくと村山の記憶によると、気迫のこもった試合をしたとき。勝ったときだけじゃない。3年前の天皇杯大分戦は、負けたけれど応援してくれた。西が丘での町田戦でもロスタイムに勝ち越されて(10年6月の前期第16節、2‐3で町田の勝ち)、結果は出なかったんだけれども、やっぱり応援してくれた。
週末、スタジアムに来たときに、勝ち負けだけでなく、お腹の底からサッカーを楽しんでもらいたい。選手個々人は上を目指すとか横河に骨を埋めるとかいろいろあるけれど、みんなが応援して好感を持ってくれる、こいつら仕事をしているけどがんばっているなと思ってもらえるチームになることに存在意義があると思う」
現時点でJを狙いはしないが、地域に根ざし、コミュニティの中心となって街を活気づける、賑わいのあるクラブを横河武蔵野FCは目指している。Jクラブではないが、エリースのように純粋なアマチュアクラブでもない。白とも黒ともつかぬ灰色の路だ。依田監督も、現状が灰色であることはよくわかっている。
「表現が難しい。白黒はっきりしろという思いの人は絶対いると思います。でもいまはもう、グレーだとカラーを出しているので、グレーはグレーなりにできること、うまくやれることを実行し、ほかにないチームのやり方を志向するという考えもあっていい。
白黒をはっきりさせれば地域に根づくのか、判断できないところがあります。Jリーグに行こうと“白”をつけたときに、この町のクラブが活気づくかがたぶんキーで。現状で活気づかないならJクラブ化しても難しいんじゃないかという思いが個人的にはあります。
そういう意味では私たちは様子見なのかもしれないし、結果としては白(プロ)を選ばなかった。下積みをして武蔵野市の市長がバックアップするよと言ってくれるくらいになり、周囲が盛り上がるくらいにならないと」
仮にいまJ2に昇格したとしても、成績以外に観客動員数や財政の問題でJFLにとんぼ返りするのではないか。だとすれば力を蓄えてJにふさわしい内実を備えることが先決だ、あとからJはついてくる──それが現在のスタンスなのだろう。
勝ち負けに左右されず、Jというニンジンにも踊らされない、熱狂的で地域愛とクラブ愛に溢れたサポーターが集うクラブ。現場も気持ちの入った全力サッカーを見せ、自分の街のクラブだから応援するというサポーターを裏切らない。そんな理想像が浮かんでくる。
白か黒かはっきりしないからこそできる地域クラブの浸透実験を、横河武蔵野FCは遂行中であるようだ。そして盛況のスタジアムというゴールは、プロではなくとも、JFLであっても、必ず実現できるはずなのだ。