未完の3-4-3
ザッケローニ監督は、「私にとってドレスのようなもの」と言う3-4-3システムの導入に腐心してきた。ウディネーゼ時代のトレードマークであり、十八番のシステムだ。
ところが、これがまるで機能しない。ここまでの進行状況をみるかぎり、14年のW杯本番に間に合うかどうかも怪しいレベルだと言わざるをえない。
3-4-3の特徴は、サイドに3人の選手が縦に並ぶこと。主な対戦相手として想定される4-2-3-1、4-4-2、4-3-3は、いずれもワンサイドに配置される人数は基本的に2人である。サイドの数的優位が3-4-3のポイントだ。
例えば、相手の左サイドバックに対して岡崎慎司がプレッシャーをかけたとする。このとき、相手の左サイドハーフの足下へつなぐパスに対して、内田篤人は強く当たりにいける。内田の背後は吉田麻也がカバーしているからだ。右サイドが岡崎、内田の2人で相手の2人に対するよりも、岡崎、内田、吉田の3人のほうが強いプレッシャーをかけられる。3-4-3は、ボールをワンサイドに閉じ込めてしまえば、相手のパスワークをより早く“詰み”にできる利点を持つ。
攻撃では、3トップのサイドの選手が、相手のサイドバック、センターバック、ボランチの中間点のポジションでパスを受けることで、相手の守備バランスを崩しやすい。
また、左サイドから内側へ絞りながら引く香川真司に対して、相手の右サイドバックがマークに来た場合は、空いたサイドに長友佑都が走り込む。センターバックが食いついてくれば、1トップが相手のセンターバックと1対1の関係になる。ボランチが対応してくれば、日本のボランチがフリーになる。
今のところ、日本は守備を想定した戦術を用意していない
こうしたファジーなポジションどりで守備バランスを崩すやり方は、Jリーグのレアンドロ・ドミンゲス(柏レイソル)でお馴染みだろう。3-4-3の場合は、サイドプレーヤーの距離はより近くになる。
3-4-3は攻守ともに、自分たちの得意な形に相手をハメて、素早いボール奪取やオートマティズムの効いた攻撃を仕掛けるのに向いている。オプションとして使うなら、短い時間で点をとりたい場合に効果が見込めそうだ。
しかし、日本代表の3-4-3は効果が表れていない。
理屈はわかっているし、トレーニングもそれなりに積んでいる。だが、いかんせん選手たちの“引き出し”が少なすぎる。その場の状況を見て、自然と体が動く。とっさに解決策が出てくる。そうでないと難しい。いちいち考えながら動いているようでは、実戦では使い物にならないのだが、日本の3-4-3は残念ながらそれに近い。
これは日本選手の技量が低いからではなく、単純に慣れていないからだと思う。所属クラブでこれをやっている選手がいない。たまに集合して、短期的に詰め込み、少し実戦をやったぐらいでは、なかなかモノにならないのも仕方がない。
監督はこのシステムを熟知していても、肝心の選手が不慣れ。では、いつになったら慣れるのか。ある日を境に、突然上手く機能し始めるのかもしれないが、1年以上経過した時点ではモノになる気配がない。ひょっとすると、時間の無駄に終わるかもしれない。だが、ザッケローニ監督が十八番の3-4-3を断念するとは思えない。
しかし、どちらにしても3-4-3は攻撃型のシステムだ。いまのところ、日本は守備を想定した戦術を用意していない。