「勝てば英雄になる」と語ったキ・ソンヨン
五輪世代でありながらA代表のレギュラークラスでもあるキ・ソンヨンは、こう語っている。
「3位決定戦を日本とすると聞いたとき、テバッ(最高というニュアンスの造語)だった。負ければすべてを失い、勝てばすべてを得る。負ければ逆賊で勝てば英雄になると思った。絶対勝ってやろうと思った」
そのキ・ソンヨンによると、チームは3位決定戦前日の日本対策ミーティングで日本対メキシコ戦の映像を視聴。その途中に流れた競り合いのシーンで、監督は自ら映像を止め、選手たちにこう言い放ったという。「明日の試合でこのような場面に遭遇したら、ぶち壊してしまえ!」
ラフプレーをけしかけたかったわけではない。何しろ普段は「ライバルである日本をリスペクトしよう」と語り続けてきた監督だ。それでもあえて激しい檄げきを飛ばしたのは、日本戦が精神力の戦いになることを誰よりも熟知していたからだろう。
「キ・ソンヨンが明かしたことは事実。私は日本に勝つためにはどうすればいいか説明しただけだ。日本は本当にサッカーがうまい。だが、我々は本当に強い。それが韓日戦の勝敗を分けたと言えるだろう」
韓国と日本の良さを融合させたチーム作り
日本はうまい。けれど、韓国は強い。奇しくも宿命の対決前にチャ・ボムグン元韓国代表監督も言っていた。「たとえるなら日本のサッカーはシルクであり、韓国はブランケットである」と。中盤を省略した激しいサッカーに終始した韓国の試合運びには日本でもさまざまな意見がある。だが日本の長所とノウハウを取り入れ、なおかつ韓国らしさも失わず、国際大会でキッチリと結果を出したホン・ミョンボ監督の言葉には、さまざまな示唆が含まれているような気がしてならない。
ともするとホン・ミョンボのチームは、韓国と日本の良さと強さが融合した、チームだったのではないか。それは、韓国と日本を知り尽くしたホン・ミョンボだからこそ作り上げることができたのではないか、と――。
それだけに気になるのは、ホン・ミョンボ監督の今後の去就である。Kリーグ・クラブからのオファーはもろちん、「自分の任期はワールドカップ最終予選まで」とするチェ・ガンヒ監督の後釜としてA代表監督就任を求める声も高まっている。しかし、慎重なカリスマは「充電」を理由に、当分の間は「自由人」でありたいと宣言している。ただ、かつてホン・ミョンボ監督は言っていた。「プロクラブよりも代表チームのほうが自分の性には合っている」と。
だとするならば、U-20ワールドカップ、オリンピックでキャリアと実績を積んだ今、監督ホン・ミョンボの次なる目標となるのは、ワールドカップでの采配だろう。世界を知り、韓国と日本の良さを生かす術を知っている指揮官が、韓国代表のタクトを振るう日が来るのは、それほど遠い先のことではないかもしれない。