決勝までの嶮しき道のり
──改めて、今大会を順に振り返ってもらいたい。王者スペインとの初戦。イタリアに勝ち目はないと誰もが予想していた試合だった。
「ところがプランデッリの采配が見事に決まって、対等に、もしかすると僅かながら内容で上回る試合を見せることができた。ユーベで慣れ親しんだ3-5-2の中で、メンバーも無理なくプレーできたように思う。いずれにしても、あの貴重な勝ち点1はプランデッリの英断が決め手だった。直前の親善試合(対ロシア)で0-3の完敗を喫してね、いつもの形がまったく機能しなかった。監督は既にその時点で決めていたんだよ。そして、ポーランドに入った日に、僕にこう伝えていた。『初戦は3-5-2でいく』とね。
もちろん、監督の考えに全面的な支持を示していた。トーレスが先発出場でなかったことが僕らにとっては幸いで、イタリアのDFラインはスペインの2列目からの進入だけに注意を払えばよかった。と同時に、やはり鍵は中盤での優位性にあった。これが前半で僕らが対等以上に渡り合えた理由だと思う。ところが後半、他ならぬトーレスが入ると僕らは布陣をコンパクトに保つことが難しくなっていた。もっとも、同点に追いつかれたのはトーレスが入る前だけどね。入って以降は明らかにスペイン優位になった。それでも僕らは引き分けに持ち込むことができた」
──スペインと引き分け、それ以降で最も難しかった試合とは?
「やはり一番難しかったのはグループリーグ2戦目のクロアチアだね。立ち上がりこそ良かったんだけど、2戦目の途中で多くの選手たちが猛烈な疲労に襲われていてね……。もちろん僕もそのひとりなんだけど、布陣全体を高く保つのがとても難しかった。後半途中で、マリオ(・バロテッリ)が下がると前線でタメを作れなくなって、必然的に押し込まれるようになっていた。結果として同点弾がある。要するに、90分を通した戦いという意味で、その運び方を途中で誤ってしまったということになる」
今大会で最高の試合
──一方、今大会の全6試合で最高の試合とは?
「やっぱり僕的にはイングランドだね。ここでもまた例のごとく試合前の評価はイタリア不利……。大会前に始まっていた“反・代表キャンペーン”みたいなムードは残念ながらまだ色濃い中での一発勝負だっから、入り方も本当に難しい一戦だったんだよ。ところが、いざ蓋を開けてみれば僕らが完全にゲームを支配して、立ち上がりから20分前後くらいまでは押し込まれる場面も何度かあったんだけどね。僕らに焦りは微塵もなかったんだよ。うまくは言えないけど、彼らイングランドの攻撃はすべて読めていた。(リズムの)変化がイングランドにはなかったと言えるのかも。結果として120分を戦うことになってしまったけど、負ける気は一切しなかった。あのPK戦で、リッカルド(・モントリーボ)が外した時でもね」
──「狂気のPK」と言われているピルロの“クッキアイオ(=スプーン)”。まさに極限状態とも言える緊張の中で、なぜ君はあんなにも平然とアレを決められるのか?
「答えは簡単。というのはね、『アレの方が簡単だったから』。なんていうとまた変なヤツって思われてしまうんだろうけど……。とにかく、あの瞬間に感じていたのは、GKハートが完全に気負い過ぎているな、と。もちろんあの場面でのGKとしてみれば当然なんだろうけどね。でもあれだけ激しいテンションで来られると、こっちとしてはどうしても外したくなる(笑)。当然、あの瞬間の僕はやっぱり流れを変える必要性を強く感じていたからね。コレを決めれば相手の次のキッカーは相当な重圧を受ける、と。まぁそんな感じだったわけだよ」
(取材協力:クリスティアーノ・ルイウ)
初出:欧州サッカー批評6