ベナイジェスは昨年からUAEのドバイにあるアル・ワスルFCの育成部門でバルセロナメソッド導入のために働いている。近頃、トップチームを率いていたマラドーナは解任され、後任としてブルーノ・メツの就任が決まったばかりのクラブだ。偶然にも似たような境遇にいる彼は、ティト・ビラノバのバルセロナの監督就任に太鼓判を押す一人。
「ティトは今までのやり方を踏襲すると思う。なぜなら本家を超えるためには、本家以外の人間には務まらないからだ。彼がペップの後任として監督に就任するとは予想だにしていなかったけれど、彼こそが適任だと思う。彼の就任によって大幅な変化が起こることもないだけに、選手たちは満足しているだろうし、リラックスしてペップのいない新シーズンを迎えることができるだろう」
今のティトに必要なのは、彼の資質へのリスペクトと少しの時間
ただ、今のバルセロナの産みの親とも言えるヨハン・クライフは彼の成功を断言していない。バルセロナのご意見番であり予言者でもあるクライフはこう述べている。
「まずは、チームがどうなるかを注意深く見ていかなければならない。彼の監督就任の是非については、もう少し時間を置き、ティト・ビラノバの働きを見た上で意見していくべきだ。すでに我々はグアルディオラと共に彼がチームを指揮しているのを見てきた。今はペップ抜きに誰が指揮していくのかを見ていかなければいけない」。
クライフのこうしたメッセージは明らかに長年対立しているロセイ会長らクラブ首脳陣に向けられているもので、ティトの能力を軽視しているわけではないことは説明しておく必要があるだろう。
クライフが率いた“元祖ドリームチーム”のGKであり、現在はクラブのスポーツ・ディレクターを務めているアンドニ・スビサレッタはSDという立場を抜きにしても、全面的に彼に信頼を置く人物だ。
「ティトはグアルディオラのようなカリスマ性やパーソナリティは持っていないが、選手としてプレーしていた頃から強い個性を持っている」とした上で、こう続ける「決断を下すには時期尚早。多くの人がグアルディオラの監督就任当初、彼の実力に疑問を抱き、ほとんどの人が彼を信頼していなかった。しかし、幸いにも彼は辛抱強かった。もしティトにも忍耐力があるのなら、彼はバルセロナを勝利に導くことができるだろう」。
そう、今のティトに必要なのはペップとの比較や新たな戦術への期待ではなく、彼の監督としての資質へのリスペクトと少しの時間なのだ。
初出:欧州サッカー批評6