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スペクタクル・ビルバオの神秘【欧州サッカー批評 6】

text by 西部謙司 photo by Kazuhito Yamada

微細な誤差も許さないビエルサ監督の目指す先

 ヨーロッパリーグと国王杯のファイナルまで進んだ昨季は大成功と言っていいだろう。ところが、オフにはビエルサがビルバオを辞めるというニュースが飛び交っている。練習場に不満があるらしく、そのためにフロントを批判し、辞任寸前の騒ぎとなった。何とか収まったようだが、いったい何でそこまでもめるのか不可解なニュースでもあった。
「練習場の敷地に、監督の泊まれる部屋を作る予定だったんです。その工期が遅れていた。練習場に泊まりがけで仕事をするので、そのための家を造る予定だったのに約束が守られていないとビエルサが怒ったんです」

 練習場に住むつもりだった。その工期が遅れているのに怒り出し、順風満帆にみえたクラブを辞めると言っていたわけだ。“エル・ロコ”のニックネームどおりの変人ぶりである。変人が失礼なら、生粋の職人気質だろうか。ほとんど仕事中毒。
「妥協がないんですね。マンチェスター・ユナイテッドと対戦したとき、アウェーの芝生がピッチの中央だけ少し長いらしく、それで、ビエルサは練習場の芝生も同じように刈らせた。そしたら、測ってみると2ミリ合ってない。やり直させたそうです(笑)。人形を立てるときも、5センチずれたらダメ。その5センチにどういう違いがあるのかわからないんですが、妥協しなんですね」

 2ミリ、5センチの誤差も許さないビエルサ監督の目指す先には、何があるのだろう。
「おそらくタイトルとか、試合に勝つことに、そんなに関心がないのかもしれません。本人に聞かないとわかりませんけどね。それよりも90分間のスペクタクル、芸術を作りたいのかも」

 これは私見だが、おそらくビエルサを最も理解できるのは日本人なのかもしれない。かつてエコノミック・アニマルとまでいわれた我々の気質に近いものがあるように思う。

 125パターンを完璧に習得した理想のサッカーに向かって、練習場の住人となる監督は、今季はどんな作品を見せてくれるのだろうか。

初出:欧州サッカー批評6

プロフィール

■倉本和昌
1982年生まれ、高校卒業後に02年にスペインバルセロナにサッカー留学。06年、夏からはビルバオに移住し、地元U-12チームの監督を務める。09年に地元U-13 チームの監督の傍ら、スペインリーグ2 部セグンダ・ディビシオンBのFCバラカルドでスカウンティングを担当。10年に帰国後、Jリーグ湘南ベルマーレU-15南足柄監督に就任。監修書に「サッカー セットプレー戦術120」(池田書店)、翻訳書に『ジュニア年代の考えるサッカートレーニング1・2』(ベースボールマガジン社)がある。

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