125パターンのサッカー
「サッカーは125パターンしかない」
マルセロ・ビエルサ監督は、そう言ったそうだ。「あらゆる試合を見てきたけれども、どうしても126番目は見つからない」
ビエルサが「あらゆる試合」と言ったら、それはもう本当にありとあらゆる試合だ。アルゼンチンのニューウエルスの監督だったとき、ビエルサは選手たちに「素晴らしい動きをする選手」の映像をみせた。確かに素晴らしい動きだった。しかし、その選手のことを誰も知らなかった。フィンランド人だった。
まだアヤックスに移籍する前の、ヤリ・リトマネンだったという。インターネットのある現在なら、無名のフィンランド人を発見することもできるだろうが、1990年にどうやってその映像を手に入れたのだろう。そのビエルサが「125パターンしかない」と言っているなら、たぶんそうなのだろう。「それを聞いて、腑に落ちたんです」
倉本和昌さんは、そう話しはじめた。バルセロナに4年半、ビルバオに3年間滞在してコーチの勉強をした倉本さんだが、ビエルサ監督下のアスレティック・ビルバオのトレーニングを見たときは、疑問だらけだった。「ピッチの至る所に人形やポールが突き刺してあって、その周辺で選手がドリル形式の練習をしていました」
何を意味しているのかわからない。コーチ陣は2時間も前から練習場に出て、設営をしていた。あちらこちらに人形が林立する。「日本でも、相手をつけないドリル形式の練習には否定的だと思います。ところが、ビエルサの練習には敵がいない、判断もない、端からみれば何でこんなことやっているのかという練習なんです。負荷をどうしているのか、実践的な判断力をどうするのか、謎だらけでした」
そこでビエルサの言葉を知り、気がついたという。「彼はゲームで起こる125の要素を、1つずつ詰めているのではないか」