ユナイテッドの選手にはない特長を持つ香川真司
日本代表で(そしてドルトムントでも稀に)香川は左サイドでプレーしているが、ファーガソンは主に4-2-3-1または4-4-1-1における1トップのルーニーのすぐ後ろで起用し、チームの弱点をカバーしようとしている。なぜなら、香川は攻撃を滑らかにするために、中盤でパスの繋ぎ目となることができる。これは今のユナイテッドの選手が持っていない特長だ。
昨シーズン、10番の役割をするウェイン・ルーニーとMFのマイケル・キャリック、ポール・スコールズとの間にはあまりにも広大なスペースがあった。CLやシティ戦ではここを徹底的に突かれ、敗れている。かつてその弱点だった位置に君臨していたのは、今はボランチへとポジションを下げたポール・スコールズだ。決定的なパスを何本も通し、02/03シーズンにはファン・ニステルローイに年間20ゴールをとらせ、リーグ制覇に貢献した。
香川の武器はそれだけではない。ドルトムントの超ハイテンポな試合を見てもわかる通り、彼は尋常ではないスピードを持っている。ブンデスリーガの屈強なDFたちを相手にしても、いとも簡単に裏をとっていた。
そしてまた、そのスピードを生かしつつ高い技術を発揮できる。最近、イングランドのメディアはしばしば彼をアンドレア・イニエスタに例えるが、このスペイン代表のように中央の狭いスペースにスピードを落とすことなく侵入でき、かつ正確にボールを受けることが可能だ(ちなみにディミタール・ベルバトフはこの動きができないがために、いつまでもレギュラーになれない)。
オールド・トラッフォードで対戦相手の多くは、“バスを駐車”してくる。ボールより後ろに多くの選手を置き、ゴール前にバスを並べるように守備を固めてくるのだ。昨シーズン、これを打開するユナイテッドの唯一の戦略は、ナニやバレンシア、アシュリー・ヤングなどのウイングにボールを預け、彼らの突破力に頼ることだった(スコールズとキャリックの位置が深すぎることが選択肢をなくしてしまっていた)。だが、ペナルティエリアが大渋滞となった状況では手詰まりとなることもしばしばあった。香川であれば、何台のバスがあろうともゴールに迫ることができる。シグナル・イドゥナ・パルクで2シーズン見せてきたことを、〝夢の劇場〟でも証明してくれるだろう。
10年前のプレミアリーグであれば香川のような選手はあまり活躍できなかったかもしれない。かつて重宝されていたのは、背が高くて当たりに強い選手だ。だが、時代は変わった。バルセロナの成功がきっかけとなり、イングランドでも、小さくともテクニカルな選手が求められるようになってきた。シティではダビド・シルバが攻撃の中心となり、チェルシーは170㎝のエデン・アザールを獲得している。