知らない番号からの突然の電話。声の主はなんとティフォージのボス
たしかに、暴動や抗争も他の危ない行為も絶えない彼らなので致し方ない面もあるとはいえ、その過激さゆえに普段は一般の人々から忌避される「ウルトラー(=Ultra:スタジアムのゴール裏に結集するティフォージ軍団)」。
彼らの屈強な体に刺青をガッツり彫り込んだ風貌は間違いなく超のつくド迫力なのだが、実のところ、直に話をしてみるとこれがもう本当に心の優しい男たちなのである。
複数の派閥からなるフィオレンティーナのティフォージ組織の中にあって、フィレンツェの街で最も貧しい地区にルーツを持つ組織のボスである“ティノ(通称)”もまた、どこまでも熱く優しい心を持つ男だ。
そのティノが――あれは5月9日のこと――まったく面識すらなかった私の携帯を鳴らしてきた。聞けば、ティノは私の親友(名はアウレーリ)と会社の同僚にして大の親友だという。
やたらとドスの効いた声で彼は私にこう語りかけてきた。
「tak(私のイタリアにおける愛称)、実はな、昨日の試合(5月8日の「フィオレンティーナvsパレルモ=セリエA第37節」)で掲げようと思ってな、割とデカイ横断幕を用意していたんだよ」
なんのことだかさっぱりわからずにいると、ティノはこう続けた。
「アウレーリから聞いてたんだよ。お前の大切な故郷クマモトが地震で深く傷ついてしまったって話を。なので、この俺だって故郷フィレンツェを死ぬほど愛する一人だからな、お前が故郷の今の姿にどれだけ心を痛めているかわかるんだ」