動物が好きな優しい性格だったバッカ
カルロス・バッカの実家の玄関前には、キジトラの猫がいた。
いつも怒ったような顔をしている外見からは想像しにくいのだが、この家の三兄弟の長男バッカは、子供の頃から動物に目がなかったという。カリブ海に面するコロンビア北部の小さな港町プエルト・コロンビア市がバッカの故郷だ。人口約5万人の蒸し暑いこの町で彼は1986年9月8日に生まれた。
「息子は子供の頃から動物が大好きで、うちでは犬と猫とインコを飼っていました。今もヨーロッパの家では犬や猫をたくさん飼っていて、遠征の際にはまるでトレーナーのように犬を帯同させることもあるようです。動物思いの優しい子でした」
父のカルロスは中庭で相好を崩しながらそう語る。私たちのすぐ上には5つの鳥籠が揺れており、インコが餌を求めて飛び回っている。猫もインコもいずれもバッカが残したものだ。
「ところが、そんな優しい子もサッカーになると別人のような情熱を見せるのです。家の前でボールを蹴り始めたのは7、8歳の頃でしょうか。目の前の路地が彼の原点です」
ここ、ノルテ・ドス(Norte Dos)地区の家並みは、コンクリートの外壁にトタン屋根を乗せた小さな平屋の住宅街である。北に5分も歩けば深い青色をたたえたカリブ海が姿をあらわし、南へ行けばバランキージャ市と呼ばれる近隣の大都市へ連なる荒涼とした風景が見えてくる。
バッカの家の前は白っぽい砂道になっており、数本の植え込みの木と用水路がある。少年時代のバッカたちは砂塵が煙るなかでストリートサッカーに興じ、そんな場所を縦横無尽に駆けていたという。将来の夢はむろんサッカー選手だ。
地元の少年サッカークラブ「トト・ルビオ」(Toto Rubio)を経て地域リーグのクラブで練習を続けていたが、18歳のときにサッカーを止めてバス会社で働くようになる。
父が記憶をたぐり寄せながら当時を振り返る。