最後尾から作り出した決定機
埼玉スタジアムを揺るがす大歓声が途切れ、一瞬の静寂をへて、拍手と感嘆のため息へと変わっていく。美しい放物線にもたらされるドラマを、その場に居合わせた誰もが期待を込めて見つめている。
左足から繰り出す正確無比なロングフィードで、最後尾から決定機を作り出す。サンフレッチェ広島から加入して3シーズン目。浦和レッズの守護神、西川周作はサポーターの変化を感じ取っている。
「(拍手とため息は)聞こえます。一気にチャンスになっていく、というところで、その変化は非常に気持ちいいですね」
迎えた2016年8月6日。ホームに湘南ベルマーレを迎えたセカンドステージ第7節は、拍手とため息が再び大歓声へと変わった点で、西川にとって忘れられないアニバーサリーとなった。
両チームともに無得点で迎えた前半8分。自陣から実に70メートルはあるロングパスを、走り込んできたMF関根貴大へ供給。思い描いた通りの展開からゴールをアシストしたのは西川だった。
レッズ移籍後では初めて、サンフレッチェ時代を含めればDFファン・ソッコ(現鹿島アントラーズ)のゴールをお膳立てした、2013年7月10日の川崎フロンターレ戦以来となる“快感”に、トレードマークでもある笑顔を弾けさせた。
「あのときはソッコの上手さがあったので。今日が本当の意味で、理想としてきたゴールでした」
ファン・ソッコは、西川が放った約60メートルのゴールキックを胸でトラップ。ドリブルでペナルティーエリア内へもちあがり、クロスと見せかけて右足を思い切り振り抜いてプロ初ゴールを決めていた。ゆえに西川自身も「あれはアシストになるのかな」と、記憶の糸を紐解きながら苦笑いを浮かべた。
対照的に関根は相手ゴール前の“ここしかない”というポイントへ走り込み、ジャンプ一番、頭を合わせている。ホームにおける通算500試合目の公式戦を快勝で飾る口火を切ったゴールは、実はキックオフ前に西川によって答えが弾き出された、3つの計算に導かれていた。