貧困だった少年時代。父親は麻薬密売で逮捕
“ベトナムの英雄”こと同国代表FWレ・コン・ビン(30歳)が今季限りでの現役引退を表明した。ベトナムサッカー界で前人未到の数々の偉業を成し遂げてきた偉大なる“CV9(背番号9のコン・ビン)”の足跡をたどってみよう。
レ・コン・ビンは1985年12月10日、ベトナム最貧困地域の一つであり、国父ホー・チ・ミン師やドンズー運動(東遊運動=日本留学運動)を興した革命家ファン・ボイ・チャウの出生地として知られる北中部ゲアン省で、姉2人妹1人という4人姉弟の長男として生まれた。
幼いころは母親が出稼ぎに行っており、父親の手で育てられた。その父親が交通事故に遭って重傷を負ったため、高額な治療費が発生し、家族は極貧の生活を送っていたという。怪我が治った父親は、貧しい人生から脱却することを決意し、麻薬密売に手を染める。
しかし、すぐに逮捕されて禁固12年の判決を受ける。模範囚だったため、禁固8年に減刑されたが、多感な少年時代をこうした苦しい環境で過ごしたレ・コン・ビンは、いつか自分の力で家族を幸せにしようと心に固く誓ったという。
貧しく、苦しい家庭環境だったが、サッカーの才能には恵まれていた。サッカーこそが貧しさから這い上がる唯一の手段だった。レ・コン・ビンは、14歳で地元ソンラム・ゲアン(SLNA)の下部組織に入団すると、持ち前のゴールへの貪欲さと努力で、めきめきと頭角をあらわし、18歳でトップチームに昇格。
だが、プロになるまでも平坦な道のりではなかった。SLNAの同年代には、後にU-23代表のエースとなる“天才”ファム・バン・クインがおり、レ・コン・ビンに対するクラブ内での評価は当初、決して高いものとは言えなかった。