ゴールを奪うために常に考え続けてきた
なぜ体が小さくても佐藤寿人は得点を量産できるのか?
この問いについて多くの人間が佐藤寿人の「ゴールハンターとしての才能」という言葉に飛びつくのではないか。そうした誤解について佐藤寿人は著書である『ゴールハンターバイブル』の中で次のように説明する。
「ゴールハンターって才能のように呼ばれますが、ゴールは狙っていなければ奪うことはできません。よくこぼれ球をゴールすると、『嗅覚が鋭い』と表現されます。でも、どこにこぼれてくるのかを周囲の情報としてキャッチして予測し、準備しているからそこに動けるわけです」
飛び抜けた身体能力、スピードがあるわけではない佐藤寿人が12年連続で二桁得点を記録し、30歳を過ぎた今でもJ1王者のサンフレッチェ広島でストライカーとして活躍できている理由は「才能」や「嗅覚」といった抽象的、感覚的言葉ではなく、そこにゴールを奪うための論理があるからだ。
「そこで7割はゴールの行方が決まっている」と佐藤寿人が説明するように、彼の論理を構成しているのがオフ・ザ・ボールの動きだ。ジェフユナイテッド市原の育成組織から2000年にトップチーム昇格を果たしている佐藤寿人だが、エリート街道まっしぐらで今の地位を築いたわけではなく、「小学生の頃から乗り越える壁はたくさんありました」と話しているように周りとの体格差に悩まされ続けた彼のサッカー人生には「挫折」も大きく、大切な構成要素だった。
「一度だけ両親に弱音を吐いたことがありました」と明かす佐藤寿人だが、小さい頃から体格的に恵まれず、一人の力でゴールをこじ開けることができなかったからこそ、「ゴールを奪うためには、どんな形でボールを引き出せばいいのか」を幼い頃から思考し続けてきたという。個人的にストライカーとして大成するために最も大切なことは「自分一人の力ではゴールは奪えない」こと知ることだと考えている。