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Jリーグ 9年前

フォルランがセレッソで伝えたかった“サクリフィシオ”。父から教えられた「犠牲心」【フットボールと言葉】

異なる言語間では、翻訳困難な語は無数にある。それはフットボール界においてもしかり。外国のフットボーラーが語った内容を、我々はしっかりと理解できているのだろうか。選手、監督の発した言葉を紐解き、その本質を探っていきたい。今回取り上げるのはディエゴ・フォルラン。“サクリフィシオ”(犠牲心)をキーワードに、ウルグアイ人FWがセレッソ大阪に残したかったものは何かに迫りたい。(文:竹澤哲)

シリーズ:フットボールと言葉 text by 竹澤哲 photo by Getty Images

フォルランが繰り返した言葉“サクリフィシオ”

2014年はじめから2015年6月までセレッソ大阪でプレーしたディエゴ・フォルラン
2014年はじめから2015年6月までセレッソ大阪でプレーしたディエゴ・フォルラン【写真:Getty Images】

 2014年11月8日、WOWOWドキュメンタリー番組「ディエゴ・フォルラン 日本へ伝える魂」のための、最後のインタビューがセレッソ大阪のクラブハウスで行われた。私は通訳と翻訳をするということで制作メンバーに加わっていた。

 フォルランを取り巻く状況は、鳴り物入りでJリーグへ加わった頃(それはわずか9ヶ月ほど前のことに過ぎないのだが)とはずいぶんと変わっていた。『久々にJへやってきた世界的大物ストライカーが日本で輝く姿を追い続ける』、それがWOWOWのドキュメンタリー制作のきっかけだったはずだ。

 しかしこの頃、フォルランは試合に出なくなっていた。招集メンバーからも外されることもしばしばあった。チームが1部残留を果たすことに貢献したくても、試合に出られずに悶々としているフォルラン。番組制作スタッフの一体誰が、このような彼を撮ることを予想していただろうか。

 インタビューの最後に、視聴者プレゼント用のボールにサインと共に好きな言葉を書いて欲しいと頼むと、フォルランは「サクリフィシオ、ゴル、トラバッホ(練習)」と3つの言葉を書いた。

「ゴール」と「練習」は納得のいくものだった。ストライカーの仕事は得点を決めることだし、練習熱心でも知られるフォルランが日々の練習を大切にしていることも容易に理解できたからだ。

 しかしサクリフィシオという言葉は、もともと献身とか犠牲とか、そのような意味だ。祖父と父、共にウルグアイ代表まで登り詰めたフットボール選手という、サラブレッドの血を引くフォルランは、少年時代はモンテビデオの高級住宅街カラスコで育ち、何の不自由もない生活を送っていた。そんな彼にはふさわしくない言葉ともいえた。

 ところが、彼はサクリフィシオという言葉をことあるごとに繰り返していた。そしてフォルランの使うサクリフィシオの意味はそれほど単純なものではなかったのだ。

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