変化する英国での差別への意識
FAや人種差別撲滅キャンペーン団体『キック・イット・アウト』による取り組みの成果は表れてはいる。国内戦では、1970~1980年代のように黒人選手にバナナの皮や果物が投げつけられる光景は見られない。
トップリーグがプレミアリーグと衣替えして間もない90年代前半、チェルシー対アストンビラをスタンフォード・ブリッジのゴール裏で観戦した際には、CKの度に相手FWドワイト・ヨークに飛ぶ人種差別的な罵声に驚いたが、今日の試合会場でその手の行為に走る観客がいれば即座に摘み出される。
言った言わないの世界だけに、一昔前は処分が難しい場合もあった。だが現在では、携帯ビデオに収められたことでパリの一件が事件として扱われたように証拠を残すことができる。人種や性別などに基づく差別行為をその場で通報し、試合会場の警備スタッフにメールが届く『キック・イット・アウト』のアップも存在する。『ガーディアン』紙の報道によれば、同団体への通報件数は、今季半ばの昨年末で前年から35%増。FAはアマチュアレベルでの通報件数を昨季の1.7倍近い800件と見込んでいる。
一見すると問題と思える通報件数の増加だが、これは差別行為の被害者や目撃者が、諦めて口を閉ざすことなく行動を起こすようになった結果として前向きに受け止めるべきだ。根絶が難しい問題には、しぶとく立ち向かうしかない。パリの地下鉄でプラットフォームに押し返された黒人男性が、諦めずに再び乗車を試みていたように。
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