「ピアノの名手は練習でピアノの周りを走ったりはしない」
監督の成功には、チームの主力と共にスタッフの活躍が付き物。「スペシャル」が代名詞のジョゼ・モウリーニョも例外ではない。昨夏に復帰を果たしたチェルシーには、母国ポルトガル時代からの忠誠心旺盛なチームスタッフ2名が帯同している。
GK担当のシルビーノ・ロウロと、フィットネス担当のルイ・ファリアだ。彼らの肩書きが、前回チェルシー時代の「GKコーチ」と「フィットネス・コーチ」ではなく「アシスタント・コーチ」である事実からは、再招聘されたモウリーニョの発言権と、両者に対する指揮官の敬意が窺える。
特にファリアは、モウリーニョの信頼が最も厚い補佐役だ。監督とスタッフとしての始動開始は、ロウロのポルト時代よりも古いウニオン・レイリア時代に遡る。2001年以来の「片腕」を、モウリーニョは「メソドロジー(方法論)のスペシャリスト」と呼ぶ。
ここで言う「方法」とは「モウリーニョ流」に他ならない。その1つが、「ボールありき」の練習法。モウリーニョ語録の中には、「ピアノの名手は練習でピアノの周りを走ったりはしない。腕を磨くためにはピアノを弾く。同じく、サッカーの名手になるための最善の練習方法はサッカーをすることだ」という発言があるが、これはモウリーニョのポリシーであると同時にファリアの持論でもある。ファリア自身は次のように表現している。
「私が指導するのはサッカー選手であって、マラソン選手ではない。だから、同じペースで2時間走り続けるような練習メニューなど必要ないんだ。彼らに求められるのは、必要な時にボールをコントロール下に置きながら走ることさ」
またモウリーニョは、対戦相手に応じて綿密に組まれた練習メニューを「言われたからこなすのではなく、最適なメニューだと選手に自覚してもらった上で消化させる」ことを基本とする。この点に関してもファリアは貢献する。