日本で味わえない経験を求めて
強い日差しを降り注いでいた太陽も西に傾き、日中の熱気も幾分和らぎ始めたタイ・バンコクの夕刻。タイプレミアリーグの開幕戦を23日に控え、BECテロ・サーサナの練習がバンコク郊外にある本拠地のスタジアムで始まろうとしていた。岩政大樹は一足早くグラウンドに姿を現すと、入念にストレッチで体をほぐしていた。
改めて述べるまでもないかもしれないが、タイには昨年から有名日本人選手の移籍が相次いだ。カレン・ロバート(オランダ・VVVフェンロ→スパンブリーFC)に始まり、茂庭照幸(セレッソ大阪→バンコク・グラス)、西紀寛(東京V→ポリスユナイテッド)、黒部光昭(カターレ富山→TTMカスタムズ=ディビジョン1)といった代表経験者が今季、タイでのプレーを選択した。
中でも私は、鹿島アントラーズからの岩政の移籍には目を見張った。2004年に入団以降、J1通算290試合出場、35得点。2007‐09年のリーグ3連覇に加え、天皇杯(2007、10年)とナビスコカップ(2011、12年)で2度の優勝を経験した彼が、昨季出場機会が減ったとはいえ、なぜ次の舞台としてタイの地を選んだのか。
彼はその目的を、“新たな挑戦”という言葉で表現した。
「まったく違うことがしたかったんです。違うことをしないと幅は広がらない。タイに来れば、クラブの経営者も選手も外国人で、価値観がまったく変わる。
サッカーで僕がもっとこうしてほしいと要求しても、なぜその動きをしなくてはいけないのか、日本なら大体の話で伝わっても、タイの人はそういう指導を受けたことがない。言葉も通じないし、何を言っているの? となる。日本でそういう経験はできないですね」